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◇ 「ごちそうさま」 「ごちそうさまでした」 「おそまつさまでした~」 お父さんとゆーちゃん、そして私の声が静かな居間に響き渡り、 今日もまた騒がしい一日が始まる。 こうやって朝食の席に3人揃ったのって、久しぶり。 休みに入って以来だから、1週間ぶりかな。 やっぱりみんな一緒に食べる朝ご飯っていいよね。 まったく、誰のせいで揃わなかったんだか。 ……いやまあ、それは私が寝てたのが悪いんだけどね。 「やっぱりお姉ちゃんが作るご飯はおいしいね」 「いやいや~、それほどでも~」 「ううっ、こなたが作ってくれた味噌汁が五臓六腑に染み渡っていく。 今日を生きる活力になる。お父さん感激だあ」 「ちょっ、お父さん大げさだってば」 ぶわっと感涙を流すお父さんを見てると、夏休みが始まってからずっと朝ご飯を ゆーちゃんと二人っきりにさせてたのが悪かったなあという気になる。 「私もいつかお姉ちゃんみたいに料理が上手くなりたいな」 「これぐらいならゆーちゃんもすぐできるようになるよ」 「そうかなあ?」 「ほんとだって。勉強会が終わったら簡単な朝ごはんの作り方教えてあげるから」 「ほんとに? ありがとう!」 満面の笑みを浮かべて嬉しさを表すゆーちゃんはほんとに可愛いなあ。 そんなに嬉しそうにされると、さすがの私も照れくさい。 でもこうやって頼りにされるのも悪くないよね。 まるで本当のお姉ちゃんになったみたいで、嬉しくてくすぐったくなるから。 あっ、でも……朝食を作るとなると毎朝起きなければならないんじゃあ……。 ま、でもそれぐらい仕方ないか。 きらきら目を輝かしてるゆーちゃんの前で今さら断れないしね。 「じゃあ、私出かける準備しなくちゃいけないから、部屋に戻るね」 「おー、行ってらっしゃい」 「後片付け手伝えなくてごめんなさい」 「いーからいーから、ここはお姉さんに任せたまへ」 「うん、ありがとう」 そう言ってぺこっと軽く頭を下げると、元気よく居間を出て行った。 「お父さん、コーヒー飲む?」 「ああ、頼む。まかせっきりで悪いな」 「いいって、気にしないで」 洗い物を片付けながら、お湯を沸かす準備をする。 このところずっと朝ごはん作るのサボってたから、たまには私もサービスしなきゃね。 お味噌汁の後にコーヒーというのもどうかと思うけど、 本人曰く「飲まないと朝が始まらない」らしい。 まっ、人それぞれだよね。 コーヒーメーカーがコポコポと楽しそうな音を奏でて、 ポットから立ち上る湯気と一緒に芳ばしい香りが部屋の中を漂っていく。 苦いのは余り好きじゃないんだけど、朝食の後に漂うこの香りはとっても好き。 だって、朝だって気分になれてすごく気持ちいいからね。 外から入る空気もまだ涼しくて、とっても爽やかで過ごしやすい。 ついでに音楽でも流れていれば、まるで喫茶店にいる気分になれそうなんだけどね。 「ねえ、お父さん。明日の勉強会なんだけど」 「んー、どうした?」 このまま優雅なカフェの中でまったりとした時間を過ごしたい気分になったけど、 私はこのところずっと悩んでいたことを思い切って聞いてみることにした。 「あの、……明日私いないから夕食当番お願いするね」 「ああ、そうだったな。分かった、まかせなさい」 コーヒーをすすりながら新聞に目を通しているお父さんは、 集中しているのか熱心に記事を次から次へと目で追っている。 こういうところはさすが作家だなと思う。 作品を作る上で役に立つ情報がないか見てるんだって、前に言ってたっけ。 ……って感心してる場合じゃなくて、こんな話をするために上等なコーヒーを 淹れたわけじゃない。 ああ、なんか話を切り出しにくい。 でも、仕方ないか。 今から話そうと思ってることは、私の将来の進路についてなんだから。 そもそもどうしていきなりこんな話をする気になったのか、 年頃のオトメの私なりにふかーい訳があるんだよ。 別に真面目になったわけでも、勉強に目覚めたわけでもないんだけどね。 でも、単なる気まぐれなんかじゃないよ。 前にかがみと電話で話したときからちょっと……ね。 夏休みに入った日だったかな、かがみが学校あると間違えて駅まで行った日。 あの日の夜、電話で話してたとき今日何してたのか聞かれて、 ずっとネトゲしてたことを言ったら呆れられちゃって。 いつものやりとりだけど、あの日はかがみとしばらく会えなくなるんだと思うと 寂しくって、少しでも優しい言葉をかけてくれるかな、なんて期待もしてたんだ。 そりゃあ、こんなぐうたらな生活を続けていれば呆れられて当然なんだけど、 かがみだけはそんな私を受け入れてくれるかなあ、なんて甘い考えがあった。 だから、心底呆れたようにため息をつかれたときには、正直へこんだ。 すぐにいつもの楽しい会話に戻ったけど、電話を切った後もずっとそのことが しこりとなって残っていて、それで色々悩んじゃったというか。 かがみと会えない間、さすがの私もこのままじゃまずいのかなー、 なんてあせってしまって、自分なりに色々考えてたんだ。 かがみは夏休みが始まってからもずっと早起きして勉強してるみたい。 何でそんな朝から勉強してるのか聞いてみたけど、恥ずかしそうに 「受験のためよ」の一点張りで、うまくはぐらかされた。 理由はよく分からなかったけど、かがみなりにしっかり目的をもって 勉強してるんだと思う。 しっかりした目的といえば、私も高校受験のときはゲーム機やパソコン目当てに 頑張ることができたけど、さすがに大学受験となると話のスケールが変わってくる。 これまで大学なんて意識したこともなかったけど、かがみ曰く 「もう受験は始まっている」らしい。 やっぱりかがみのように具体的な目標があると、勉強も頑張れるのかな。 でも、じゃあ何をしたいとか、何になりたいとかの目標の無い私はどうなるんだろう? 前に学校の進路調査で団長とか南斗神挙伝承者なんて書いたこともあって、 あれは確かに受け狙いもあったんだけど、ほんとは自分が何をしたらいいのか 分からなかったんだ。 漫画やアニメやゲームは大好きだよ。 でも、それとは違う、将来私のやりたいこと、なりたいものって何なんだろう。 『──は晴れ。蒸し暑い一日になるでしょう』 「……あ、明日晴れるんだ。良かった」 少し考え込んでいた間に、テレビの画面の中が難しい顔をしたニュースキャスターから 快晴の笑顔を振りまく天気予報のお姉さんに替わっていた。 ああダメダメ、最近こんな風に考え込んじゃうことが多いよ。 しっかりしなきゃ。 「あの、お父さん」 「んー?」 「勉強……会の話なんだけど」 さて、ここからどうやって話をつなげよう。 いきなり進路の話なんかすると驚かれそうなので、まずは勉強会の話からと 思ったんだけど……改まってこういう話をするのって難しい。 そういえば、これまで私から勉強とか将来の進路についてお父さんに 話をする機会なんてほとんどなかった。 高校を受験するとき以来だろうか。 みんなはお家でこういう話をどうやってしてるんだろう? 「そうだ、明日の夕飯なんだが、冷蔵庫にカレーの材料残ってたかな?」 どうやって進路の話につなげようかと考えあぐねていると、 お父さんが先に話しかけてきた。 「えっと、野菜室の奥にじゃがいもとにんじん入ってるから使って。 たまねぎは下の段にあるから。今日は私が代わりに料理当番するね」 「ああ、頼んだ。よーし、明日はゆーちゃんのために久しぶりに お父さん頑張っちゃうゾ」 朝からやたらとみなぎってるお父さんを見てると、ますます話し辛い。 はぁ、最近の私は少し変だ。 そりゃあかがみに言わせれば私はいつも変なのかもしれないけど(ひどいよね?)、 そういう意味の変じゃなくって。 このところ気になることが多すぎて、ずっと熱中していたネトゲにも身が入らなくなったんだ。 いざ狩りに行かんとログインしても以前ほど楽しめなくて、集中せずプレイしてたら パーティーが全滅しちゃって、黒井先生に「気合入ってないんちゃうか?」と活を入れられた。 深夜にゲームに熱中してる学生に対する先生の台詞としては色々突っ込みどころ満載なんだけど、 確かにボーっとしていつものように気合が入ってなかったなあと思う。 でも、しょうがないよ。 これまであまり使うことの無かった携帯が気になって、そっちばかりちらちら見てたんだから。 まるで今にもかがみから電話がかかってきそうに感じて……ね。 こんな風になったのはいつからだろう。 やっぱり──夏休みが始まってからかな。 「じゃあ、明日お願い。私がいない間にゆーちゃんに変なことしたらダメだからね」 なんとなく話し辛い雰囲気から抜け出したくて、冗談めかして言ってみた。 「ははっ、何を言うんだ、こなた。大船に乗ったつもりで勉強会に行ってきなさい」 「なんか嘘っぽいよ」 ──はぁ。 やっぱり言いにくい。 もうこの話は止め。 また今度でもいいよね。 今日は朝から何しよう。 夏休みのまだ始まって1週間ぐらいしか経っていない時期に、 私がこんな朝早くから起きることなんてこれまでなかった。 去年ならネトゲで深夜まで狩りをしていて、レアアイテムが手に入りそうなときには 鳥のさえずる声が聞こえてくるなんてこともよくあったのに、 今年はそこまでやろうって気がしないんだ。 自分でも怠けすぎたかなと思うことはあったけど、 レアアイテムを目の前にした時の手に汗握る感覚はほんと時間を忘れさせる。 ネトゲをやったことのある人には分かってもらえるよね? はぁ、こうやって休みの日ならいつも寝てる時間に起きると、 なんだか学校へ行く気分になる。 それも悪くないかなぁなんて思ってる私は、どこかで変なものでも食べちゃったのかな。 「お父さん、コーヒーのおかわりいる?」 「ああ、頼むよ」 カップにコーヒーを淹れながら、チラッと新聞をのぞき見る。 大きな紙に所狭しと文字が詰まっていて、よくこんなのに集中できるなあと思う。 お父さんは相変わらず新聞に釘付けで、こっちをほとんど見ようともしない。 ちょっとぐらい私の気持ちに気付いてくれてもいいのに、そんなのどこ吹く風って感じだ。 あ、そうだ、お父さんったら酷いんだよ。 今朝会ったとき休みの日に早起きした私がよっぽど珍しかったのか、 「そうか。こなたもついに真面目に」なんて言いながら、 感極まったように抱きつこうとしたりして。 そんな失礼な態度におなかの辺りをつねってやったら、ぎゃあっと飛び上がってた。 ふんっ、私だってたまには早起きぐらいするし、悩んだりすることもあるんだよ。 でも、……やっぱり朝ずーっと起きてこない私を心配してくれてたんだよね、きっと。 それに寂しい思いもさせてたのかな。 「じゃあ、私部屋に戻るね」 そんな朝の出来事を思い出したせいか、部屋から出るのがすごくためらわれた。 私が出て行ったら、またお父さん一人部屋に残ることになるから、 もう少しかまってあげた方がいいのかな。 「こなた」 「えっ、なに?」 どうしようか悩んでいると、私を引きとめるようにお父さんが声をかけてきた。 「お父さんの勘違いかもしれないが、何か言いたいことがあったんじゃないのか?」 「あっ……」 お父さんってずるい。 いつもはヘラヘラして私のことを心配しているような素振りを全然見せないくせに、 本当はちゃんと私のこと見てくれてるんだから。 「うん、ありがと。でも大丈夫だから」 お父さんはしばらくじっと私の目を見つめた後、またいつもの笑顔に戻って言った。 「そうか。色々不安な時期かもしれんが、思い詰めないことだ」 「うん」 「それに」 「ん?」 「お父さんはいつでもこなたの見方だからな。困ったことがあるなら、 いつでも言いなさい」 「……うん」 そう言ってくれたお父さんの心遣いに、胸がすうっとしていくのを感じた。 お父さんをかまってあげなきゃなんて思ってたけど、ほんとは私の方が かまってもらいたかったのかもしれない。 飾り気が無くて、とてもきざで、お父さんらしい台詞。 そんな台詞が、今ならとても素直に受け取れる。 ──ありがとう、お父さん。 ◇ 居間を出て部屋へ戻ろうとすると、ちょうどゆーちゃんが玄関で靴を 履き替えているところだった。 もっと遅くに出かけるものだと思っていたのに、ずいぶんと早いんだ。 「もう出かけるんだ」 「うん、少し早いけど待ち合わせの時間に遅れちゃったら困るから」 「待ち合わせは何時だっけ?」 「9時だよ」 さっき時計を見たときは、8時を少し過ぎたぐらいだったのに。 「待ち合わせ場所って、そんなに遠いの?」 「ううん、糟日部駅だよ。そこで田村さんたちと待ち合わせしてるんだ」 「ふーん。でも今からだと、早く着きすぎない?」 「うーん、確かにそうかも」 家からだと歩く時間を合わせても30分あれば着くはずだ。 「でも途中で気分悪くなったら遅れちゃうかもしれないし、早めに出た方が いいかなって。それにね、少し早めに着いて待っていたいんだ」 なるほど、そういうことですか。 「みなみちゃんだね?」 「えっ、べ、別にそんなことないよ」 そこで慌てたら、はいそうですと言ってるようなもんだよ、ゆーちゃん。 「好きな人は待っていたいものだからねえ」 「もう、そんなんじゃないもん」 私をポカポカと叩きながらも、顔がゆるんじゃってる。 ほんと嬉しそうで、うらやましい。 「ところでどこまで遊びに行くの?」 「ショッピングをした後、田村さんが池袋にあるいい所に連れてってくれるんだって」 「いい所ねえ」 ひよりんが連れて行きそうなところというと、例の通りか。 「じゃあ、そろそろ行くね」 「おー、行ってらっしゃ~い。ゆっくりデート楽しんできてね~」 「むうっ、行ってきます」 少し怒った表情の中にもはにかんだ笑みを浮かべて、嬉しそうに出かけていった。 ああ、ゆーちゃんは今日オタクの階段を上るんだね。 たくましくなって帰ってくるんだよ。 再び一人になって部屋へ戻ろうとすると、さっきのゆーちゃんの 嬉しそうな顔が目の前をよぎった。 ──嬉しそうだったな。 夏休みが始まってから、かがみたちとはまだ一度も会っていない。 これまでの長期休暇でしばらく会わないことなんて何度もあったのに、 今年の夏はずいぶん長く感じてしまう。 ──もう一週間になるんだ。 日曜日が終わって学校へ行って、そしてまた日曜日になるまでの長さ、 夏休みの約五分の一を占める期間。 「長いよね、一週間って」 誰にとも無く呟いた声は、人気の無い廊下に静かに吸い込まれていった。 「さーて、宿題でも片付けますか」 部屋へ戻ると、かがみが聞けば目を丸くしそうな台詞を言いながら勉強机に向かった。 ほんとは宿題なんてしたくないんだけど、これまでと違うことをして 気分を入れ替えたいのもあったし、さっき進路の話をしようとしていた手前 やっぱり勉強しなくちゃという気になった。 せっかくの長期休暇なんだから、ずっと遊べればなあと思うんだけど、 現実はそうもいかないらしい。 学校で毎日勉強してたんだから、休みの日ぐらい勉強から開放して欲しいよね。 机の上には夏休みに入って以来放置されている教科書やノートが うず高く積み上げられている。 やらなくちゃと思いながらも見て見ぬ振りをしてきた宿題たちは、 まるで私をあざ笑うかのように、その高さを誇らしげに見せ付けていた。 恨めしげにその宿題の山を見つめながら、去年のことを思い出す。 去年は夏休みの終わりまで放置し続けて、結局休み明けに徹夜でやるはめに なってしまったんだ。 提出できなかった宿題のせいでさんざん先生にお説教をくらったし、 宿題を見せてくれるようかがみに泣きついて迷惑かけたから、 今年ぐらいちゃんとやらなくちゃならない。 それに、明日の勉強会にまっさらなノートを持っていくとかがみに怒られそうだから、 ちょっとぐらい進めておかないとね。 「ま、文句ばかり言ってても始まらないか」 覚悟を決めて、宿題の山の中から適当に本を引っ張り出した。 くじのように引き当てた問題集を開くと、目に飛び込んでくる文章の山、山、山。 国語の長文問題だ。 「……この問題は後回しでもいいよね」 少し冷や汗をかきながら、簡単な漢字の問題から解くことにした。 こういう単純に知識を問うような問題は、ゲームとかでもよく出てくるから 意外と抵抗無くできちゃうんだよね。 難しい漢字もネットで検索すればすぐに調べられるし、便利なんだ。 そういえば前にそのことをかがみに話したとき、辞書を使うべきで ネットで検索するのはよくないって言われたことがある。 別に辞書でもネットでも調べるのは同じじゃんって言ったら、 ネットだとつい別のサイトをのぞいてしまって勉強に集中できないからダメなんだって。 まるでゲーム機のようなものだね、勉強机の側にゲーム機があるとそれが気になって 宿題できない気分。 確かに私もちょくちょく勉強とは関係ないサイトを見ることがあるからよく分かる。 あと、勉強は本と鉛筆があればできるとも言ってた。 ようは心構えの問題らしい。 かがみってそういうところはとてもこだわるんだよね。 じゃあ電子辞書はどうなるのって聞き返したら、言葉に詰まっちゃって。 あれはいいのよなんて言ってたから、その辺の基準もよく分かんないよね。 一通り簡単な問題ばかり解き終えて問題集に目をやれば、 当たり前のことながら苦手な長文読解の問題ばかり残っていた。 ……まあ、なんだ、がんばれ私。 小一時間ほど問題集とにらめっこしながらうんうんうなっていたけど、 結局集中力が続かなくって、設問を埋めることがほとんどできなかった。 はぁ、大体書いてる内容が全然面白くないんだよ。 ほんとにみんなこんな長い文章を最初から最後まで読んで理解してるのかな? 古い小説の真面目くさった主人公が出てきたり、どこかの偉い先生の書いた難しい本の内容だったり、 文学論がどうだったりと、……そんなのお父さんに聞いてほしいよ。 最近は本屋さんとか行くと漫画で解説してる本があるんだから、 それと同じように長文問題も漫画で描いてくれたら読み解く自信があるんだけどね。 でも、そうなると絵を描く人が大変なんだろうな。 もっとこう、心を揺さぶる冒険話とか問題に載せてくれると私でも集中できると思うんだ。 それだったら私でも退屈せずに読めそうな気がするんだけど……あくまで気がするだけだけどね。 手始めに明日かがみに読みやすいラノベ貸してもらおうかな。 そんなことを考えていると、強い日差しが部屋の中に照りつけて、 私の集中力をさらに奪っていった。 結局半分以上真っ白なままの問題集を前にして、再びため息をつく。 これだけ時間かけても全然進まないなんて、やっぱり私ってダメな子なのかな。 その点、かがみはいつも勉強をずっと続けていて、すごいなって思う。 以前かがみのクラスの前を通りかかったとき、普段私のクラスでは見せないような きびきびとしたかがみの姿を見たことがある。 私の知らない人に勉強を教えてるみたいだったから話しかけなかったんだけど、 かがみはその人にすごく感謝されてた。 凛としていて、背筋もピンと伸ばして真っ直ぐ前を見つめている姿がすごく かっこよかったんだ。 そんなしっかり者のかがみに比べて、私はどうなんだろ。 いつもはかがみに教えてもらったり、こっそり盗み見て怒られたりしながら 宿題をやっていたから、こんな私でも困ることは無かった。 でも、これから一人でやっていかなければならなくなったとき、 私はどこまでできるんだろう? たったこれだけの宿題でつまずいてる私は、この先一人でやっていけるんだろうか? みんなに頼りにされるかがみと、不真面目で落ちこぼれな自分。 目標を持ってそれに向かって頑張ってるかがみと、将来何をしたいかも分からない私。 よく考えてみれば、これほど不釣合いな組み合わせも無い。 ──私、かがみの側にいてもいいのかな。 日も昇り蒸し暑くなった部屋の中で、私はブルっと震えた。 かがみの側にはもっと相応しい人がいるんじゃないかって、これまで当たり前のように 与えられてきた居場所を突如奪われたような不安に、胸が締め付けられた。 勉強のこと、将来のこと、そして……かがみと私との関係。 これまで考えないようにしてきた不安が次々と浮かび上がってきて──。 『ブーッブーッブーッ』 ベッドの上に放置していた携帯の振動音に、私はハッとした。 慌てて取りに行くと、ディスプレイにはかがみからのメールの受信を知らせる メッセージが表示されていた。 『おはよっ。ゲームばかりやってないでちゃんと起きてるか? 私はもう少しで宿題終わりそう。今日は明日の準備や掃除で忙しくなりそうだけど、 あんたも宿題頑張んなさいよ』 「……もう、分かってるよ、かがみ」 携帯のディスプレイに並ぶただの無機質な文字が、まるでかがみのノートに並ぶ 少し右肩上がりのくせのある文字のように、温かみをもって私の目に映った。 件名も書かれていないぶっきらぼうなかがみからのエール。 その一文字一文字が私の心に染み込んでゆき、それまで感じていた不安が和らいでいく。 ──かがみも今頑張って勉強してるんだよね。 前に電話したとき、朝起きて勉強してるって言ってた。 そう思うと不思議と私も頑張れる気がして、もう一度最初からゆっくり丁寧に 文章を読んでみた。 すると、さっきまで全く頭に入ってこなかった内容が、少しではあるけれど、 理解できるようになった。 ──まるでかがみが支えてくれてるみたい。 そう、いつもかがみが側で教えてくれるときと同じように、私は理解できた。 かがみの教え方が上手いのもあるけれど、それ以上にかがみが側にいてくれることが 私の心の平安を保つのに、自信や余裕を持って私らしくあるために欠かせなかったんだ。 今なら私でも問題が解ける。 そんな自分の姿をかがみが頑張って勉強してる姿に重ね合わせる。 そうすると嬉しさが溢れてきた。 頑張り屋で、照れ屋で、そして寂しがり屋なかがみ。 今私は少しでもかがみに近づけてるのかな? かがみの側にいても、恥ずかしくない私になれてるのかな? 「かがみ……」 さっきからずっとかがみが頭の中に浮かんで離れない。 すでに私の体の一部のように、違和感無く私の心の中にかがみが存在している。 でも、それは全く不思議なことではなく、むしろかがみがいないことの方が 私にとって不自然なことだった。 ──やっぱり、変なもの食べちゃったんだ。 胸がどきどきして、キュッと締め付けられたように苦しくなって、 頭の中がその人のことでいっぱいになる。 そんな目に見えなくて甘酸っぱくてほろ苦いものを、いつのまにか口にしてしまったんだ。 それを何と呼べばいいだろう? きっとくさい台詞を言うお父さんならこう例えるんじゃないかな。 ──恋という名の果実、ってね。 始まりは一歩から(3)へ続く コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-06-01 13 17 32) ありがとうございます。 そう言っていただけると、励みになります。 二人はこれからどうやってこの微妙な距離を詰めていくのでしょう。 遅筆なので次がいつになるか分かりませんが、マイペースで書いて いきますので、お待ちくださいね。 -- 18-236 (2008-12-14 01 59 28) GJ! いつもながら、SS全体の雰囲気と2人の距離感が凄くいい。 毎回楽しみです! -- 名無しさん (2008-12-13 21 21 40) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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人物名鑑:泉こなた ゲーム内における泉こなた レプリ東京奪還作戦から非戦闘員の料理人として同行した少女。レプリ名古屋のアニメショップの常連のヲタクでもある。それゆえきわどい発言で話をさえぎられることもしばしば。 基本的に裏方としてPTを支えている。マッサージの心得もある。 最終部では名古屋にとどまり、D-STAGEの裏方として柊姉妹やランカを支えることに。 原作における泉こなた CV:平野綾 『らき☆すた』の主人公で主要4人組の1人。母は物心つく前に亡くなっており、父(*1)と2人暮らし(*2)。 男子よりのものを好むヲタクで高校時点でR-18ゲームをプレイするツワモノ(*3)。その一方で文字は苦手のようで、かがみにライトノベルを勧められた際は押され気味になっていた。
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物足りない帰路、さびしんぼウサギなんてからかわれているけれど、かなり的を射ているのかもしれないわね。・・・認めたくないけど。 「お姉ちゃん、こなちゃん家にお見舞い行くんだよねー?」 「一応そのつもりなんだけど、この雨だと自転車はどう考えても無理そうよね」 雨は学校にいたころより酷くなっていた。 「そうだねー、帰らないでそのままお見舞いに行けばよかったかも」 つかさが言うのも一理あるんだけど、お見舞いに行くのだから何か持っていこうかと思っていたから、こうして一旦帰ってきたのだけれど・・・どうも裏目にでたらしい。 「やっぱりお見舞いなんだから、何かもっていった方がいいかと思っんだけど」 律儀なことを言ってる気もする。前に、私が風邪でこなたがお見舞いに来たときには、宿題を写しにきただけっぽかったし・・・。 「境内の紫陽花がそういえば綺麗に咲いてたわね。あれを少し拝借して花束を作ってもっていこうかしら」 「あ!それいいね。今年はちょっと時期が早いけど綺麗に咲いているよ」 もって行くものは決まった。でもさすがに勝手に切ってしまうわけには行かない。確か、紫陽花の手入れをしているのは、母だったはずだから、母に聞いてみないと。 「おか~さ~ん。こなちゃんのお見舞いに紫陽花の花を持っていきたいんだけど、いいかなぁ?」 「お見舞いに紫陽花を?いいわ。ちょっとまってて、綺麗なのを見繕って持ってくるから」 今日のつかさはなんというか行動が素早い気がする。 それについて、感心しているうちに紫陽花の花束を母が持って戻ってきた。 それは、綺麗なライトパープルの紫陽花。土の成分で紫陽花の色は変わるというけれど、うちの境内に咲いている紫陽花は毎年、この色の花をつける。株自体がこの色の花をつけるタイプらしくて、遺伝なのだそうだけど、詳しくはよくわからない。 私とつかさが生まれたときに、新しく植えた株だそうなんだけど、どういうわけか私達姉妹と髪の色と同じ色の花が咲くらしい。今年は、例年になく綺麗なライトパープルだった。 「わぁ、今年のは一段と綺麗にないたね~」 「本当ね。凄く綺麗」 二人して褒め称えると、母が少し得意げだった。 「そうでしょう、今年は去年より綺麗に咲いたのよ、これもお母さんの努力の賜物ね、ふふふっ」 母の嬉しそうな笑みにつられて私もつかさも同じように笑顔になる。 それから、服を着替えて、さて出かけようかなというタイミングのことだった。 「くしゅんっ」 玄関にて、いざ出かけようとした所でつかさが盛大にくしゃみをしたのだ。 「つかさ、大丈夫?」 風邪のお見舞いに行こうというのに、それだけ盛大なくしゃみをされては連れて行ってよいものか迷った。 「あら、少し熱っぽいわね」 母の手がつかさの額に当てられていた。つかさはしきりに「大丈夫だよ、お母さん」と繰り返していたが、つかさがお見舞いへ行くことは却下されることとなった。 「私もやめとこうかな」 まだ、こなたとは少し気まずい。嫌な気まずさとは違う・・・けれど、どう表していいのかわからない気まずさが残っている。 胸の奥に芽を出した名もない感情は少し成長して、それが私の心をほんの少し乱しているのもその原因の所為だろう。 こなたの事を考えると胸がざわざわして、どうしてか、物凄く悲しくなってしまう。いや、悲しいのとは少し違う・・・どう言い表せばいいのだろう。 「私もこなちゃんのお見舞いにいきたいよ、お母さん~」 私もつかさという口実がなければ、なんか育ってはいけない感情が名付く程に成長してしまいそうでとても、怖かった。 「だめよ。でも、せっかく花束を作ったから、そうね・・・かがみ持っていってあげたら?」 しかし、母は行けという。その言葉に・・・何故でだろう、あの日繋いだ手がほんのりと温かみを浮かべていた。 「へ?な、なんで、わ、私だけで・・・つかさに熱があるならそっちのほうが心配だし。・・・私もいかないわよ」 何故か声が上ずってしまう。虚勢にしては余りにも滑稽な弁明だった。 「お姉ちゃんは、とってもこなちゃんが心配なんだね」 つかさの言葉に心臓が跳ね上がった。きっと何か特に意図があるわけじゃない。 でも、つかさはどうしてだか、こういっては何だけれどいつも鈍いのに突発的に心の自分でも気がつかない程、奥の何かに触れるような発言をすることがある。 「そ、そんなことないわよ。さっ、傍にいてあげるからベッドで横になったほうがいいわよ」 頭を振って、考えを切り替えて母の後ろにいるつかさの手を引いて部屋に連れて行こうとするが、つかさが動かなかったので、私はつんのめってこけそうになってしまった。 「大丈夫だよ。お姉ちゃんは、私の分までお見舞い行ってきてよ。その方が嬉しいな」 つかさは表情は笑顔で、でも目だけは心配そうな真剣な、そんな不思議な感じの目をしていた。 「じゃぁ、さっと行ってすぐに帰ってくるから」 私は母から紫陽花の花束を受け取りながら、つかさにそう告げた。 「きっとこなちゃん、喜ぶよ」 そういうつかさの額に手を当てると少し熱い。微熱程度だろうけど、風邪のひきはじめには違いなかった。 「あいつのことだから、きっと元気にゲームしてるわよ」 じゃぁ、行ってくるから、ちゃんと寝てるのよ?なんて言うと母が苦笑していた。 つかさがしっかりと頷くのを見届けてから、私は家をでた。 雨は相変わらず降っていた。こんな中、お見舞いだなんて馬鹿げているわね・・・そんな事を思いながら、あの空が青一色に染まってくれる事を願う。 しかし、紫陽花の花言葉ってどんなのだったかな。考えを巡らせていると、前にみゆきから聞いた、日本とフランスの二つの花言葉を思い出した。 日本のは移り気又は心変わり、冷たい人だったかな?でもフランスのは元気な女性だったはず。 フランス流で行けば、十分にお見舞いの花としては間違っていないかな。 言葉なんて、捉える言葉の意味によって変わるのだからここはフランス流で行こう。 ・・・この時、私は心変わりという花言葉がほんの少しだけ胸に染込んだ気がした。 目を覚まして、時計を見ると学校が終わった時間になっていた。空は相変わらず重たい色で染まっている。相当汗を掻いたのかべっとりとしたパジャマの感触と前髪の感触に嫌悪感を感じる。 今頃、かがみ達は学校の帰りかな。私がその場にいたら、かがみにしがみ付いて、それから、からかって顔を真っ赤にして怒ってるのにどこか楽しそうな彼女を見ながらつかさやみゆきさんと笑うのだ。そしたら、かがみも笑って・・・それはとても楽しいに違いないのに、どうして私はその場にいられないのだろう。 「あれ?」 ふと呟いた声は随分と掠れていた。それよりも声を出す程、驚いたのは頬を伝うたった一滴の涙。一滴から始まり、頬を伝い零れる。 私はいつからこんなに、寂しがりに、孤独に弱くなってしまったのだろう。 「ゆーちゃん帰ってきても部屋にいれるわけにはいけないよネ」 ゆーちゃんはつい此間、風邪をひいていたのだから部屋に入れるわけには行かない。きっと感染ってしまうから。 みゆきさんは家が遠いから無理だろうけど、かがみやつかさならお見舞いに来てくれるだろうか? そんな事を考えがら、重い体を起こして昼間に作っておいたホテルみたいにドアに引っ掛けられる“ゆーちゃんは感染るかもしれないから立ち入り禁止”というカードをドアノブに引っ掛けてベッドに倒れこむ。本当は、着替えたいけどそんな元気ないや。 もしかしたら、かがみなら前の仕返しにお見舞いに来てくれるかなぁ。 そんな何の保障もない期待をして、私は目を閉じる。誰もお見舞いに来なくたって早く元気になって学校へ行けば、皆に会えるのだから。 何気ない日々:温かい手へ コメントフォーム 名前 コメント (๑ ◡ ๑)b -- 名無しさん (2023-06-26 07 49 29) 全作品をいっぺんに読ませていただきました。 文章がとても上手で、特に心理描写が秀逸ですね。 続編を楽しみにしています。GJでした。 -- 20-760 (2009-02-03 07 40 25) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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「ふうっ、侵入成功っと!」 草木も眠る丑三つ時、私は柊家のかがみの部屋に侵入していた。 えっ、何でそんなことをするのかって? クリスマスだからさ! まあ冗談はそこそこにしといて。 あれは数日前のことだったよ・・・。 冬休みを目前に控えたとある日の昼休み。 私達はいつものように4人で昼食を食べていた。 そこで行われた、とりとめのない話の1つがきっかけとなった。 「そういえば、もうすぐクリスマスだよね~」 「もうそんな時期か~。1年って過ぎるのはやいわよね」 「そもそもクリスマスというのは(ry」 つかさ、かがみ、みゆきさんの話を耳に入れつつ、例のごとくチョココロネをほおばる私。 口の中に入れていた分を飲み込んでから、私は気になっていたことを聞いてみることにした。 「ねえねえ、みんなは今年サンタさんに何をお願いするの?」 そう言ったら、みんな少し変な顔をした。 何か変なこと言ったかな? 「ちょっとこなた、この前サンタさんはいないって話したばかりじゃない。まだ信じてたの?」 「そもそもサンタクロースというのは(ry」 私の言葉に早速突っ込むかがみ。 「それはそうなんだけどさ、サンタさんへのお願い考えるのってさ、何か楽しくない?私は毎年やってるんだけどな~」 「あ、それわかるかも~。ほしい物を書いた紙を枕元に置いて眠るのって、何だかドキドキするよね~」 「うんうん、あとあれだよね、靴下!ゆーちゃんとかがちっちゃな靴下を用意する姿って、絶対萌えるしね」 「私ね、子供のころおっきな靴下を自分で作ったこともあるんだよ?」 「そもそもクリスマスの靴下とは(ry」 いつものように共感してくれたつかさと靴下談議を始める私。 やっぱり似たもの同士なんだよね~、私達って。 「全く・・・そういうのは小学生くらいで卒業しなさいよ」 冷めた感じで発言するかがみ。 なんでそこまで現実的なのかなあ・・・?ちょっとは夢見ようよ。 「あれ?でもお姉ちゃんも確か去年は枕の下に・・・」 「!!!ス、ストップつかさ!それ以上言うな!」 顔を真っ赤にしてつかさの口を塞ぐかがみ。 前言撤回、かがみも夢見る乙女だねえ~♪ 「ふっふ~ん、かがみんもそうなんじゃん♪全く可愛いなあ♪」 「と、ところでこなたはなにをお願いするの!?サンタさんに!」 ここぞとばかりにからかおうとしたが、本題に戻されてしまった。 かがみ弄りを生きがいとしている私としては、少し不満だ。 なので、 「そうだなあ・・・。う~ん、かがみんが欲しいかな~?」 と言ってみた。 「な、ななななな何言ってんの!?そ、そそそそそそんなの、む、無理に決まってんじゃない!」 「あははは、かがみん顔真っ赤だよ~」 この後もしっかりかがみをからかったんだけど、この時聞けなかったんだよね~、かがみは何が欲しいのか。 大好きなかがみんのためだ、私が一肌脱ごうではないか! そう思い、こっそりと忍び込んでみました。 まあ、つかさに協力してもらってるんだけどね~。 ちょっと探りを入れてみると、どうやらかがみもつかさも、毎年ほしい物を書いて枕の下に置いておくらしい。 そのつかさには既にプレゼントを渡してある。 バルサミコ酢であそこまで喜ばれるとは思ってなかったけどね。 ちなみに今の私は、バイト先から拝借してきたサンタ服を着込んでいる。 こういうのは雰囲気が大切だからね~♪ そんなことを考えながらゆっくりと寝ているかがみに近づく私。 何か夜這いしてるみたいだ。 「zzz・・・」 静かに寝息を立てるかがみは、私が男だったら襲いかかってしまいそうなくらい可愛い。 「それじゃ、お邪魔しマース、と」 起こさないように注意しつつ、枕の下にあった紙を引っ張り出そうとした。 そして取り出した瞬間! 「こなたああああああああああああああああ!」 「ひゃああああああああああああああああ!?」 かがみに抱きつかれた。 起こしてしまったらしいけど・・・どうしてそんなにガッチリ抱きしめるの!? 「ちょっ、かがみ、は、離して・・・」 家の人を起こさないように静かに話す私。 しかしかがみは聞いていない。 「ああ、もうっ♪まさか本当にこなたがもらえるなんて!サンタさんにお願いした甲斐があったわ!」 急いで手の中にある紙を見る。 ああっ、本当に『こなた』って書いてあるし! 私がこの前言ったのは冗談なのに~! ってゆーか、かがみのテンションおかしくない!? ま、まさかこれが噂のクリスマス・マジックってヤツですか!? 「しかもこなたがサンタさんの格好を!こんなサンタならいくらでも信じられるわ!」 「うひゃっ?どこ触ってんのさ・・・ちょっ、そこは・・・ふわあっ!?」 体のあちこちを触ってくるかがみ。 こ、これ以上はマズイ。早く抜け出さないと聖なる夜が性なる夜になってしまう! 必死に逃げようとする私。しかし、 「こなた・・・」 「んんっ!?」 「んんっ、はむっ、んちゅ、ん・・・、ちゅうううううっ」 「ああんっ、ふわあああああ・・・・」 かがみにディープキスされてしまい、全身の力が抜ける。 上手すぎだよかがみん・・・一体どこで覚えたのさ・・・。 抵抗出来なくなった私は、気がつくと服を脱がされてしまっていた。 「さて、それじゃあいっただっきまーす♪」 「や、やめてかがみん、落ち着こう、ね?」 「こーなたああああああああああああああああ♪」 「無視ですか!?ってそこはあっ!うにゃああああああああああああああああああああ!?」 こうして私のサンタ大作戦は、私自身がプレゼントとなる形で幕が閉じた。 うう、何でこうなるんだろう・・・。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-04-16 17 32 40) 性なる夜… ぶっちゃけ現実でもそうだよね(リア充限定) もう今年もそんな時期だな -- 名無しさん (2013-11-30 19 23 47) この作者様のオムニバス・シリーズは、お話によって”百合こなた”と”ノンケこなた”の どちらかになるんですね。 連作を通して読むときは気をつけないと… -- 名無しさん (2011-05-05 07 09 19) みwikiさんカワイソwww -- 名無しさん (2011-03-30 17 58 25) 性なる夜...いいかも -- 名無しさん (2010-07-30 15 43 11) かがこなのかがみは必ず壊れる件 -- 名無しさん (2009-11-12 05 51 20) 性なる夜&うにゃあああああああ!?・・・・腹痛いGJ -- kk (2009-10-27 23 13 20) シカトされてるみwikiカワイソス -- 名無しさん (2008-05-18 02 34 06) テンション高ッ!!! -- フウリ (2008-04-02 12 28 53) ナイスかが×こな。 -- 名無しさん (2008-01-08 19 39 20) みゆきワラタ 続きが気になるw -- フグ (2007-12-28 18 55 24) みゆきwwwww やはりこな×かがはおもすれー(^ω^) -- らはある (2007-12-27 23 03 19)
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メランコリーブルーへ コメントフォーム 名前 コメント 下のお二方、ありがとうございます ! 自分もハアハアしながら描いてますw ( ← キモイぞw -- 8-784 (2009-03-12 17 49 08) あぁ、こなた大好きなかがみ すごくかわいいです~ -- 名無しさん (2009-03-11 02 14 43) つうか、この作者どんどん上手くなってるな・・・。 -- 名無しさん (2009-03-11 00 00 16) 確かにかがみは苦労性っぽいですよね。 でも、世話を焼ける人がいることは、幸せなことなのかもしれませんw -- 8-784 (2009-03-07 23 05 33) かがみって深く考え過ぎて案外そんなでもなかったみたいな苦労ばっかしそうだな。 まあそれがかがみらしいがな! -- 名無しさん (2009-03-07 02 35 34)
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「こなちゃーん、遅れてごめんねー」 「あっ、つかさ!遅かったから心配しちゃったよ~」 学校は冬休みに入り、私たちは早速買い物に出かけることになっていた。 でも、珍しく時間通りに待ち合わせ場所に行ってみると、つかさもかがみも来ていなかった。 携帯を持たない私は、それから約30分放置プレイの気分を味わった。 うう、待つことの辛さを初めて知ったよ・・・。 「そういえば、つかさは何で遅れたの?かがみは来てないみたいだし」 「うーん、それがね、お姉ちゃんが出かける直前に倒れちゃって・・・」 「ええっ、かがみが!?な、何で!?」 驚いてつかさに尋ねる。 私の嫁であるかがみの身に何かあったら、私はこれから先、どうやって生きていけばいいの!? 「実はお姉ちゃんね、今朝からずっと熱があったみたいなの。でも、こなちゃんと久しぶりに遊べるからって無理してたみたいなの」 「そうなんだ・・・」 最近テストとかで忙しかったからなあ・・・。 実際私が早く来たのも、かがみとつかさと思いっきり遊べるのが楽しみだったからだからね。 「でね、今日家に誰もいないから、私がお姉ちゃんの看病をしないといけなくて・・・」 申し訳なさそうに言うつかさ。 でも、私が携帯を持っていたらわざわざここまで来なくても伝えることは出来ただろう。 あー、今度からは携帯も持ち歩かなくちゃねー・・・。 よしっ! 「つかさ、私も行くよ。かがみが心配だし」 「えっ、本当?よかった~、お姉ちゃんも喜ぶよ~」 こうして私はつかさと共にかがみの看病をすることになった。 とんでもない悲劇が私を襲うとも知らずに・・・。 「おじゃましま~す。・・・ってあれ?つかさ、家族の人はどうしたの?」 柊家に行ってみると、いつも見かけていたおじさんやかがみそっくりのおばさんがいなかった。 「うん、みんな朝から出かけちゃって・・・。私一人って結構不安だったんだ~」 つかさが私に笑顔を向ける。 やっぱりつかさもかなりの萌えキャラだよね~。 かがみんがいなかったら、襲い掛かって食べちゃうとこだよ~。 「さて、それじゃあかがみんの様子でも見てきましょうかね♪」 「すう、すう・・・」 ぐっすり眠っているかがみの顔を覗き込む。 「う、んん・・・」 寝苦しいのか、少し寝返りを打ったかがみの顔は、熱のせいかうっすらと赤く染まっていた。 汗もかいているようで、髪が少し顔に張り付いている。 やばい。物凄く可愛い。 「すう、すう・・・」 「・・・・・」 しばらくの間かがみを見続ける私。 うう、もう我慢できない! 「ん・・・こなた?」 かがみに触れようと手を伸ばしたところで、かがみが突然目を覚ました。 「うわっ!?え、えーと、いや~、お見舞いに来たんだけど、また良い寝顔を見せて貰ったよ~」 しどろもどろになりながらも、何とかごまかすことに成功。 かがみも、 「ま、またアンタは・・・!からかいに来たんなら帰れ!」 と、顔を真っ赤にしながらいつも通りのセリフをくれた。 「ダメだよ~お姉ちゃん。こなちゃんはお姉ちゃんを心配して来てくれたんだよ?」 「えっ?こ、こなたが私のことを・・・?」 私の後ろからひょっこり顔を出してかがみをたしなめるつかさ・・・いたんだ。 うう、ずっとかがみのこと見つめてたの、気づかれちゃったかな・・・? そう思いながらも、とりあえず私はかがみに声をかけることにした。 「そうだよ~かがみん。私の嫁に何かあったら大変だからね♪しっかり看病してあげるから、私に任せたまへ~」 「い、いつ私がアンタの嫁になったのよ!?」 「気にしない気にしない♪とりあえずかがみは寝てていいよ」 いつもはもっとかがみをからかうところだけど、熱が上がっちゃいけないからね。 「それじゃあつかさ、かがみに昼ごはんを作ってあげようか」 「うん、そうだね!おかゆとかでいいかな?」 こうして私とつかさでかがみのお昼ご飯をつくり、食べさせてあげた。 ここまでは良かったんだ、ここまでは・・・。 「あれ?つかさー、飲み物無くなってるよ?かがみ全部飲んじゃったみたい」 「えー、そうなの?冷蔵庫にも何もないし・・・。買ってこないといけないね~」 「あ、じゃあ私が行って来るよ。つかさはかがみに薬飲ませてあげてよ、熱下げるやつとか」 「うん、わかった~」 本当は私がかがみに飲ませてあげたいんだけど、そこら辺はつかさに任せることにした。 ちょっと残念だけど、あの2人は姉妹だからね~。 「ありがとうございました~」 コンビニを出て、かがみの家に戻る。 かがみんのためにアイスやプリンも買ったので少し袋が重い。 ちょっと時間かかっちゃったかな? 「ただいま~。つかさ~、買って来たよ~・・・ってあれ?」 台所には誰もいなかった。つかさも、当然かがみも。 う~ん、かがみの部屋かな? そう思ってかがみの部屋へ向かう。 何か騒がしい気がするんだけど・・・。 勘違いじゃありませんでした。 「あはははははっ!見ろ、東方は赤く萌えている!」 「や、やめてよお姉ちゃ~ん、近所迷惑だよ~」 「つかさ、私は空を飛べる気がするわ・・・ううん、きっと飛べる!いざ行かん、イスカンダルへ!」 「む、無理だよ~」 かがみのキャラの壊れかたが半端じゃない。まさにカオス。 一体どうしたらこんなことに!? 「こ、こなちゃ~ん、く、薬を飲んだらお姉ちゃんが変に・・・ひゃうううっ」 「あはははははっ」 「薬ってまさか・・・これ?」 私が拾い上げたそれはまさしく・・・ 「タ、タミ○ル!?しかも使用期限切れてるし!」 な、なんでこんなものが・・・。 ってゆーかつかさ、こんなとこで自分の萌え要素をアピールしなくても・・・。 かがみもこれであそこまで壊れるのはおかしくない? 「あ、こなただ~~~♪」 「うひゃああああっ!?」 色々考えてるうちにかがみに襲い掛かられた。 つかさはいつの間にか逃げ出している。 くうっ、こんな時だけ素早いなんて・・・! 「んんっ、こなた可愛い・・・」 「ちょ、ちょっとかがみ・・・。とにかく寝よう、ねっ!?」 「こ、こなた・・・。全くもう、気が早いんだから♪」 そう言うと同時にかがみのベッドに引きずり込まれる私。 「ち、違うよ!そういう意味じゃ・・・ふわあっ!?」 「こなたったら凄く可愛い声出すのね、可愛い・・・」 「んっ、ふう・・・ん、あはあっ!そ、そこはダメ・・・んひゃうっ!」 「こなた、こなたあ・・・」 体のあちこちを弄られ、私は声を抑えることが出来ない。 エロゲの達人である私がここまで翻弄されるなん、てえ・・・。 「んじゃ、こなたも準備オッケーみたいだし、いっただっきまーす♪」 「や、やめてかがみ・・・うにゃああああああああああああああああああ!?つ、つかさ、あんっ・・・た、助けて~~~!」 こうして私はかがみが正気に戻るまで攻められ続けた。 つかさは私の声が聞こえてたはずなのに助けてくれなかった。 うう、覚えてろよ~・・・。 かがみに抱かれたまま、私はつかさへの復讐を誓うのであった。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-04-16 20 55 01) つかさ編欲しいっすねぇ -- 名無しさん (2009-10-27 19 47 16) 明らかに正気だろwwww -- 名無しさん (2008-05-18 02 36 14) ホント最高だわwwww かがみカオスwwww だが、それがいい!!! -- ハルヒ@ (2008-05-05 00 35 04) このシリーズは本当おもしろすぐるw -- 名無しさん (2008-04-22 01 11 05) nice konakaga.wwwww -- 名無しさん (2008-04-21 20 19 37) タミフルってwww -- 名無しさん (2008-04-18 02 57 58) こなたの~~ シリーズは毎回面白くていい(≡ω≡.)b -- ほむ (2008-04-14 13 10 36) このシリーズはこなたがかわいくて好きです -- 名無しさん (2008-01-23 18 49 35)
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高校2年の9月半ば、夏の照りつける太陽は少しずつ弱まり、蝉の鳴き声も日ごとに 少なくなってきている。とは言っても、正午近くになれば依然30度近い高温にまで上昇するため この時期は夏服の着用が許可されている。10月には冬服に切り替わるために、この暑さも 落ち着いてほしい所である。 私、柊かがみにとって陵桜学園での昼食は一番楽しみな時間の一つである。 幼少の頃から、私とつかさは一緒に昼食を取っている。双子ということもあり、 私たちは学校生活を通して一度も同じクラスになったことは無いため、人見知りしやすい つかさのクラスに私がお弁当を持っていくのが日課であった。 四時間目の授業を終えて、つかさが作ったお弁当を持参した私が、E組のドアから教室を 覗くとE組の生徒たちの半数は既に昼食を取り始めていた。E組の授業は世界史だったようで、 黒板にはイギリスやフランスにおける王権神授説や重商主義政策などが書かれている。 こなたたちはつかさの席の周りに集まっており、こなたが私に気づくと手招きをしてきた。 そんなこなたの様子につかさとみゆきも私の存在に気づくと、私は軽く手を振りながら つかさの席へ足を運んだ。 「んん、美味しい」 つかさの作った卵焼きを口にすると仄かな甘さが広がる。 「ありがとう。その卵焼き、いつもより上手に焼けたと思ってたんだ。良かった」 つかさはあどけない笑みを浮かべながら返事を返した。今日つかさが作ったお弁当には 卵焼き、小型ハンバーグ、野菜炒め、ウサギの形に切られたリンゴがデザートとして 付いてくる彩り鮮やかなお弁当だ。つかさは私と違い料理が上手で、家でもお母さんの 夕食を手伝ったりしていることが多い。姉としてつかさには負けまいと、勉学を はじめとする様々なことでつかさより一歩先の立場にいた私だが、料理だけはどうやっても 敵わなかった。カレーライス程度しかまともに作れない私には、その才能を羨ましく思う。 「今日もかがみさんとつかささんのお弁当は美味しそうですねぇ」 みゆきは感心したように私とつかさの弁当を見つめている。 私から見れば高校生の昼食のお弁当にウナギを入れてくるみゆきの弁当には敵うまいとも思ったが、 みゆきは悪気があって言っているわけでは無いのだろうし、私もそれを口にしようとは思わなかった。 「みゆきさん。そこは『今日も』じゃなくて『今日は』だよ。 昨日の二人のお弁当と比べたらつかさが可哀そうだって」 こなたはみゆきに内緒話をするような仕草で、 しかしはっきりと私に聞こえる声量でそう口を開いた。 先日私が用意した、表面が焦げ付いてしまった焼き鮭の切り身に夕飯の残りの ホウレン草の胡麻和えとたくあんを入れただけの代物と比べられれば私に敵うはずもない。 たしかにこなたの言葉を否定できる部分はどこにも無かった。だがこうもはっきり 言われてしまうとさすがに私も黙ってはいられなかった。 「仕方ないでしょ! 私が家事とか料理が苦手だし、誰にだって得意不得意はあるわよ」 「食べることだけは誰にも負けないのにねぇ」 「うるさい!」 私はこなたに向かって自分の拳を振り上げる。もちろん本気でこなたを殴ろうなどとは 思っていない。私は怒っているんだということをこなたに示すためだ。 しかし、こなたも実際に拳は飛んでこないと知っているのか、頭に手を乗せて 身を守っているようには見えるものの、その減らず口は止まるところを知らない。 「かがみ凶暴! そんなんだからいつまでたっても彼氏ができないんだよ」 「ちょっと待て! それは私だけじゃないだろう!? あんたはどうなんだ!?」 「うふふ、泉さんとかがみさんは本当に仲がよろしいのですね」 「うんうん。お姉ちゃん、こなちゃんといる時っていつも賑やかで楽しそうだもんね」 私たちが口論していると、予想だにしなかった別方向からの攻撃に 私は思わずたじろぎ、その場で立ち上がって二人の言葉を否定する。 「ちょ! そんなわけ無いでしょう!? こいつのおかげで毎日私がどれだけ苦労してるか!」 「う~ん。このツンデレっぷり、たまんないねぇ。さすが私の嫁」 「嫁とか言うな! 恥ずかしくないのかお前は!!」 「あの、多分お姉ちゃんの大声の方が恥ずかしいと思うよ……」 つかさの言葉に周囲を見渡すと、私はクラス中の視線を集めていたことに気がついた。 「う……」 気恥かしさにそれ以上の言葉が出てこなくなり、私はその場に腰を下ろすしかなかった。 私たちの日常はいつもこうだ。こなたが私をからかい、私が怒って、 つかさとみゆきがその仲裁をする。そんなやり取りを繰り返す毎日だが、私にとってこの4人で 過ごす時間は一番の宝物だった。いつまでもこうしてみんなと一緒にいたい。 いずれは卒業し、みな別々の道を歩むことは分かっている。それでも今は、 この何気ない日常を精一杯楽しんでいたかった。 「陵桜学園の近くで別の高校の女子生徒が襲われる事件が発生した。 幸い女子生徒は無事だったらしいが、未だ犯人グループは捕まっていないらしく……」 私のクラスである2年D組の担任が帰りのホームルームを行なっている。これが終わり 日直が号令をかければ文化祭の準備に取り掛かれるのだが、今日はいつもより ホームルームが長い。生徒たちもしびれを切らしたのか、静まりかえった授業中とは違い 皆雑談に夢中になっている。 「うちの高校の近くで事件か。物騒な世の中になったなぁ」 「最近は刃物を使った殺人事件とかも多いから気をつけないとね」 私の後ろに座る日下部と峰岸がそう口にする。私も会話に 参加しようかとも思ったが、この後の文化祭の準備のことを考えていた私は 二人の話を漠然としか話を聞いていなかったため、聞き流すことにした。 「はぁ、柊は良いよなー」 と思ったのもつかの間、後ろから日下部に名前を呼ばれればそうもいかなくなる。 「何がよ?」 私は日下部に向き直り尋ねた。 「だって柊の凶暴さは犯人も裸足で逃げ出すほどだろうしさ。 むしろ間違えて柊を襲った犯人が可哀想ってもんさ」 「なんだって!?」 「おー恐い恐い。あやのー、柊が虐めるよー」 「もぅ、今のはみさちゃんが悪いわよ」 「そこ、今は休み時間じゃないぞ。静かにする」 流石に声が大きすぎたか、担任から注意を受ける羽目になる。 私は正面に体位を戻すと、後ろから 「全く、柊のせいで怒られちまったじゃねぇか」 という言葉が聞こえてきた。私も負けじと小声で返す。 「どう考えてもあんたのせいだろ」 「二人とも。また注意されるといけないから、今は静かに。ね?」 峰岸の言葉が双方に等しく水をかけたようだった。私は日下部への文句を堪え、 お互いに押し黙る。また日下部のせいで注意を受けるのも癪なので、 私も文化祭の準備に思考を戻した。 「……というわけで桜藤祭の準備も結構だが、下校の際には十分気をつけるように。 私からは以上だ」 第十五回陵桜学園桜藤祭。私たちの通う陵桜学園は進学校ということもあり、 文化祭という行事ができたのも開校して10年以上も経ってからだった。 伝統こそ浅いものの、このあたりではなかなかの規模で行われ、 文化祭当日には多くの人が集まる。 今年のD組はE組と協力して体育館を使って劇を行うことになっている。 私個人としては経験が無い劇よりも、お化け屋敷や喫茶店のような定番の物のほうが 良かったのだが、クラスの過半数以上に賛成されてしまえば、 異議を唱えるわけにもいかなかった。 こなたと日下部は役者に、つかさは小道具、みゆきは監督兼進行係、峰岸は脚本を 担当することになっていた。私は劇の経験など全くないので何をやるか模索していたのだが、 こなたは私を役者にしたかったらしく、私の知らぬところで半ば強引にみゆきを はじめとする学級委員、文化祭実行委員、そしてクラスのメンバーを説き伏せてしまった。 普段は頭を使ったり、自分から行動することは面倒臭がるくせに、 こう言うことに関してだけは手回しが早い。私は以前こなたに 「役者としてなら、私なんかより顔もスタイルも良いし、何でもそつなくこなせる みゆきのほうが適役じゃない?」 と訊いたことがある。私の疑問にこなたは 「わかってないなぁ。役者としての適性じゃなくて、勝手に決めるなと言いながらも 結局引き受けてくれるかがみだから萌えるんじゃん。みゆきさんもありだろうけど、 やっぱり私的には『ツンデレ萌え』なわけよ」 と、親指を立てた右手拳を私に突き出し、誇らしげに答えた。 らしいといえばらしいが、あまりに予想通りのこなたの言葉に私は肩を落とした。 しかし、こなたはしばしの後にこうも付け加えた。 「……それに、こういうのって仲のいい友達と一緒にやりたいじゃん。みゆきさんは最初から 監督と決まってたし、つかさは人前に立つの自信無いって言ってたし。かがみには迷惑かなーって 考えもしたけど、きっとかがみなら役者でも大丈夫って自信もあったしね」 その時の、笑顔で答えたこなたの顔を私は忘れられないだろう。 時々、自分の気持ちを率直に言葉にできるこなたを本気で尊敬する時がある。 こなたのことは手のかかる面倒な奴だとも思う時もあるが、それでも私にとって大切な親友で あることに違いないし、初めての劇で心許せる友達と一緒というのは心強いことだと思う。 しかし、私も心では同じように思っていても、素直になれない私は、本当はこなたと 同じ気持ちなんだとは伝えられなかったと思う。 その後の私はこなたに対してどう返答したのか覚えていない。ただ、その日の学校帰りに 駅前のお店でこなたにアイスクリームを奢った記憶がある。普段あまり人に物を 奢ったりしない私がこなたにアイスを奢ったのだから、その日の私は 上機嫌だったんじゃないかと思う。きっと私にとって、劇でどの役割を 頑張るかよりも、誰と頑張るかの方が大切なことだったのだろう。 「はい。今日はここまでにします。みなさん、お疲れさまでした」 本日最後の合同練習がみゆきの号令と共に終わりを告げ、張り詰めていた空気が解かれる。 今日は週末の金曜日ということもあり、夜遅くまで練習を延長することも可能ではあったが、 日程にはまだ余裕があるし、現状そこまでする必要は無いだろうと 今日は夕方五時が解散時刻になっていた。 私たちいつもの4人は体育館から外に出た。9月も中ごろとなれば、この時間でも 空が青から橙に移り変わろうとしている。夏服には冷たく感じる乾いた風が 少しずつ、しかし確実に秋の季節が訪れてきていることを感じさせた。 「ふぅ、だいぶ形らしくなってきたわね」 私がみゆきにそう口を開くと、みゆきも満足そうにほほ笑む。私たち舞台組は、 今のところ速いペースで進んでおり、後数日もあればスケジュールをこなせそうだった。 「準備に時間かけ過ぎだよー。またゴールデンタイムのアニメがリアルタイムで見れない……」 「録画予約してあるんだったら別にいいじゃない。スケジュールは余裕を持って組むものよ。 それに、余裕ができればつかさを手伝うこともできるじゃない?」 私はつかさに向き直ってそう答える。 「ごめんね、みんな。まだ時間かかっちゃうかも……」 「心配しないで。つかさはよくやってるよ」 沈痛な面持ちのつかさに私は軽く背中を叩いてあげる。 私たち舞台組と違い、裏方組は思うように進んでいないらしい。特につかさの 担当する小道具は衣装やかつらを用意するのに膨大な作業量を要している。 加えてここ最近の、つかさと一緒に小道具を担当している生徒たちは各々の事情により 学校での作業人数が普段より少なくなっている。このような状況下でつかさだけを 責めるのは酷というものだろう。 「ふぅ、みゆきさんが組んだスケジュールだから安心と言えば安心だけど その分大変だよねぇ。学園祭なんだし、もっと気楽にやろうよ」 「何言ってんの? さっきも言ったでしょう。こういうことは余裕を持って準備するのが 基本なのよ」 気だるそうなこなたに対して、私は子供をあやす様な穏やかな口調で説得する。 「あら、メールですね」 みゆきは携帯電話を取り出しながらメールの確認を行い始めた。 「誰から?」 「母です……。あぁ、なるほど」 メールの確認をしたみゆきは困ったような、苦笑いしているような表情を浮かべた。 「すみませんが、私は一足先に失礼しますね」 「何かあったの?」 「いえ、母がお腹がすいたので早く帰ってきて夕食の準備をして欲しいと」 「みゆきさんも大変だね」 「そういうことですので、今日は失礼します」 「ばいにー」 私たちのお決まりの言葉でみゆきと別れる。一人バス停へと向かうみゆきの背中を 見送りながら食事の準備のために、家に帰らなければならないことを思うと少し 同情してしまう。こなたの家と違いみゆきの家は両親が健在でみゆき自身も一人っ子のはずだ。 そんな娘に食事を作るように帰りをせがむ母親はどういう人なのだろうという疑問を 持たざるを得なかった。もしかしたら、今のみゆきが才色兼備なのは そのお母さんの影響なのかもしれない。 「そうそう、私も携帯新しく買ってもらったんだ」 つかさはみゆきの携帯を見て思い出したのか、私とこなたに新しく買ってもらった ピンク色の折りたたみ式携帯電話を取り出した。アニメキャラクターのストラップ ――たしか、ケロロ軍曹という名前のカエルをモチーフにしたキャラクターだ―― が付いており、可愛いもの好きなつかさらしい携帯電話だった。 「おぉ、良かったね」 「実力テストの点が良かったからご褒美にってお父さんが」 「番号教えてよ。私のも教えるから」 「うん、ちょっと待っててね」 つかさは番号を呼び出すために慣れない手つきで携帯電話のボタンを押し始める。 こなたも番号を交換するために自分の携帯電話を取り出した。 「こなたが携帯持ち歩くなんて珍しいわね?」 私は心に思ったまま疑問をそのままこなたにぶつける。こなたの携帯の電話番号は 私の携帯にも登録してあるが、携帯にかけても繋がることはほとんど無く、 私からこなたに電話連絡する場合は、こなたの自宅の電話にかけるのが日課になっている。 「いやー、この前までどこに行ったか分からなかったんだけど、机の引き出しの 奥から発掘してさ。せっかく買ったんだし使わないともったいないかなと思ってね」 「これからは持ち歩いていてくれ。連絡を取りずらくてしょうがない」 「大丈夫大丈夫。休みの日はネトゲとアニメでほぼ間違いなく家にいるから 家に電話してくれれば、まず連絡つくって」 自信満々にこなたがそう答えると、携帯と四苦八苦していたつかさが ようやく準備ができたらしく、二人は電話番号を交換し始める。 「……ひきこもりみたいな生活してるな」 額に手を当てて、あきれながらそう呟いた私にこなたは何を思ったか、 私を見ながら口元に笑みを浮かべた。別に褒めたつもりは無かったのだが、 オタクの思考回路では今の言葉をどう捉えたのだろうか? 私は携帯を操作するこなたを観察する。身体こそ標準の女子高生より 小柄なものの、手足は筋肉で引き締まっている。小さな見た目に反し、 握力一つとっても私やつかさよりも上だろう。 運動神経という一点のみを見れば、陸上部で普段から体を鍛えている日下部や、 万能の天才であるみゆきをも上回る身体能力を持つこなただが、その性格上 高い身体能力が生かされることは無い。格闘技の経験者でもあるらしいが、 宝の持ち腐れという言葉がこれ以上似合う奴もいないだろう。 「じゃ、私たちもそろそろ帰るか」 二人が番号を交換し合ったのを確認した私は二人にバス停に向かうように促した。 しかし、つかさが 「ごめん、お姉ちゃん。こなちゃん。私はもう少し残るから二人で先に帰ってて」 と私とこなたに言う。つかさの言葉に私は首を傾げると、こなたも私にとって つかさの言葉が予想外だったことを察知したのか、つかさに問いかけた。 「つかさがかがみと別行動とは珍しいね。何かあったの?」 「えっと、私のところは予定より遅れちゃっているから もう少し頑張ろうかな……って」 「急ぎじゃなければ慌てる必要もないと思うけどね。まだ時間もあるんだし 少しずつやっていけば良いんじゃない?」 「でも、私のせいでみんなに迷惑はかけたくないから……」 役者である私やこなたにつかさの担当する小道具の仕事がどのくらい遅れているのかは 明確には分からない。たどたどしいつかさの言葉とは裏腹に、瞳には 決意は変わらないと代弁してるかのように、光彩が浮き出ていた。 さすが私の妹と言うべきか、一度言いだしたら何を言っても駄目なんだろう。 私はそう理解し、こう言うところは私とよく似ていると思うと 笑いがこみあげてきて、私は口元を手で押さえた。 「お姉ちゃん?」 つかさなりに自分の責任を必死に果たそうとしているのだろう。 ならば、私の取るべき行動は一つだった。 「私も手伝うわ。一人でやるより二人でやる方が良いでしょ」 「お姉ちゃん、いいの?」 「もちろんよ。つかさが残るなら私も残るわ。つかさ一人だと不安だしね」 最愛の妹に対しても憎まれ口をたたくあたり、本当に私は素直じゃないなと思う。 それでもつかさは、私の言葉に顔を綻ばせてくれた。 「そういうわけだから、こなたは先に帰ってて。私もつかさと残るから」 「うーむ、そうしたいのは山々だけど、かがみにそこまで男気を見せられたらねぇ……」 こなたは顎に手をやって思案を巡らせているように見える。 それから一度頷くと、こなたは私とつかさを交互に見遣った。 「私も手伝うよ。どうせ今から帰ったってアニメには間に合わないしね」 根っからのオタクであるはずのこなたにとって何一つ得られる利益など無いのに、 私たちのために学校に残ってくれるという。 私がこなたに信頼を置ける理由が少しだけ分かった気がした。 「こなちゃんも……。二人とも、ありがとう!」 こうして、私とこなたとつかさは文化祭の小道具が置かれているE組の教室へと向かった。 「ふぅ、これだけやれば大丈夫でしょう」 「ふぇー、疲れた……。やっぱり意地はらないで帰れば良かったかな」 「でも、これでゆきちゃんにも迷惑かけないで済みそうかな」 あれから私たち三人は誰もいないE組の教室で小道具の作成に掛かっていた。 家には帰りが遅くなることは電話してあるし、明日は土曜日なので通常授業は無い。 文化祭の練習も午後からなので、明日の朝起きるのが遅くても何も問題は無かった。 守衛さんに見つかった時にはあせったけれど、事情を説明するとなるべく早く帰る様にと 忠告を受けながらも、今回だけ特別に許してもらうことができた。 「早く帰ろう。ネトゲが、アニメが、私を呼んでいる!」 「あんたは悩みが無さそうでいいな」 元々の体力の差なのだろうか、あるいは趣味がこなたに活力を与えているのか。 疲労感を全身に感じている私とは対照的に、こなたは快活に答えた。 私は椅子からゆっくりと腰を上げると、作業のために勝手に動かした机と椅子を 元の配置に戻す。そんな私に続き、こなたとつかさも帰宅の準備と後片付けを始めた。 「そんなわけ無いじゃん。深夜アニメは録画予約してないから急いで帰らな――あー!! 」 こなたの突然の大声が私の耳をつんざき、驚愕してしまった私とつかさは手を止めてしまった。 「いきないでかい声を出すな! 耳に響く!」 「しまった……。準備のことですっかり忘れてた……」 「何? また見たいアニメでも見逃したの?」 「そうじゃなくて……。かがみ、今何時だか分かってる?」 こなたの言葉に私は教室前面の黒板の上にある壁時計に目を向ける。 「何時って……10時40分よね?」 「私たち、どうやって帰るの?」 「どうやってって、バスに乗――」 そこまで言葉を発した私は、ようやくこなたの言いたいことに気がついた。 この時間だと学校から駅に向かうバスはもう走っていないかもしれない。 普段これほど遅くまで学校に残らない私たちは帰宅のことなど完全に忘れていた。 「迂闊だった……。今の時間だと、もうバス無いわよね?」 「私もはっきりとは覚えていないけど、たしか10時半ぐらいで最後だったと思うよ」 つかさの言葉を期に教室に沈黙が訪れる。私の記憶でも最後のバスの時間は それぐらいだったはず。つまり私たちはこの疲れた体で駅まで歩くしかないのだ。 私たちがいつも利用している糟日部駅までは陵桜学園からだと直線距離で 少なく見積もっても約3 kmはあるだろう。 私が二人の分も代弁して、大きくため息を吐き出し、重い口を開いた。 「……仕方がないわね。駅まで歩くしかないんじゃない?」 「……結構遠いよね?」 「タクシーでも呼ぶ? 駅まで歩くのも大変だし、ここはかがみ様の奢りで」 「何言ってるの。そんなに呼びたければ自分で呼べ」 「むぅー。こういう時みゆきさんがいれば、一つ返事でタクシー呼んでくれそうな気がするよ」 「ゆきちゃんの家ってお金持ちだもんね」 「みゆきがいたところでタクシーを呼んでくれるかは分からないけど、 無い物ねだりをしても仕方が無いでしょ」 「はぁ、やっぱり歩くしか道は無いのかねぇ」 先ほどまでの元気はどこへ行ったのやら。こなたの態度は一転し げんなりとした表情で、残りの片づけを行う。まあ歩いて帰らなければならないことに 辟易しているのはこなただけで無く、私とつかさも同じだ。 こなたの言葉通り、タクシーでも呼んで帰りたい気分ではあったが、終電の電車には まだ少し余裕があったし、明日の午前はゆっくり休めると思えば そこまでしようとは思わなかった。 後片付けを終えて全員が帰宅の準備を終える。私たちは明かりを消して教室を出た。 深夜の学校は静謐が包みこんでおり、窓から差し込む月明かりが廊下を照らしてくれている。 普段は喧騒に包まれているこの廊下も、今は私たちの足音が廊下に鳴り響いているだけだった。 つかさは誰もいない夜の学校が恐いのか、私の腕にしがみついてきた。 神社の娘でありながらお化けが恐いとは情けないな、と心の中で考えながらも つかさが私の腕を強く握り離さないことが、姉として慕われている証だとも思えて 嬉しくもあった。深夜の学校は怪談話の舞台としてよく取り上げられることが多いが、 リアリストを自負している私には、何故夜の学校というものにそこまで恐怖を抱くのかが いまいち分からなかった。 階段を下りてげた箱に向かう途中の道で黒井先生に出くわした。 「おぉ、泉に柊たちか。こんな時間までまだ残っとんたんか?」 宿直で見回りでもされていたのだろうか? 黒井先生は私たち3人を順番に見下ろすと、 やや口を尖らせて答えた。まあこんな時間に生徒だけで学校をうろついていれば 不審に思われても仕方ないだろう。 「いやぁ。文化祭の準備で残っていたんですけど、気が付いたらこんな時間に」 こなたが私たちを代表して、今までの経緯をこれ以上ないぐらい簡潔に答える。 「そうか。頑張るのは結構なことやけど、高校生なんやし、はよ帰らなあかんで。 それと泉。今ちょっとだけえぇか?」 黒井先生の言葉が教職者としての威厳を感じさせる言葉から、急に友好的な言葉づかいに 変わったように感じられる。先生は頭を下げながらこなたの前で両手を合わせた。 「頼む! 今攻略に詰まっててどうしても先に進めないところがあるんや。 何かえぇ攻略法は無いか? さほど時間はとらせん。教えてくれ」 黒井先生のあまりの予想外な言葉に私は開いた口が塞がらなかった。 遅くまで残っていた私が思うのもなんですが、先生、今早く帰れと仰いませんでした? 唖然としている私とつかさを他所に二人は会話を進めていく。 「また今度にしましょうよ。この間も『5分だけ』のはずが30分も時間取らされたんですよ?」 「そこをなんとか頼む! 頼れるのは泉しかおらんのや!」 「はぁ……。わかりましたよ。長くなりそうですから、どこか座れる場所へ行きましょう」 「さすが泉や! 話が分かる。ほな職員室へ行こうか?」 「あの、こなちゃん?」 すっかり置いてけぼり状態だった私たちだが、職員室へ向かおうとする二人を なんとかつかさが食い止める。 「あぁ、ごめん。そういうわけだから先に帰ってて。追いつけそうなら後から追いかけるから」 その言葉を最後に黒井先生はこなたを連れて、廊下の奥へと消えていった。 取り残された私とつかさは目を合わせ、二人同時に ため息をついてから、げた箱に向かって歩き出した。 「なんていうか、付き合うこなたもこなただけど、こんな時間にゲーム攻略のために 生徒を家に帰さない教師ってのも凄いな」 「ま、まぁ黒井先生は気さくな人だし、こなちゃんと黒井先生は仲が良いみたいだから」 正門を抜けた私たちはいつもならバスに乗って通る糟日部駅への道を歩いていた。 雲一つ無い夜空には白く輝く満月と、彩るように散りばめられた無数の星たちが宝石のように 美しく輝いている。月の柔らかな光と、等間隔で立っている街灯の明かりのおかげで深夜でも 視界は良好だ。いつもなら車の行き来が絶えることのない車道や買い物に向かうと思われる主婦、 犬の散歩をしているおじいさんなど、人の往来が絶えないこの道も、今はネズミ一匹いないのかと 思えるほどの静かな様相に、いつも通っている通学路も昼と夜という違いだけでこうも違って 見えるのかと改めて感じていた。 「あのね、お姉ちゃん」 「ん、どうしたの?」 つかさはおずおずと私の名を呼んだ。つかさがこういう態度の時はたいてい言いにくい 相談だったり、悩みを抱えていることが多い。私はつかさが少しでも落ち着けるように 朗らかに笑みを浮かべてつかさを見つめた。 「お姉ちゃん。いつもいつも、本当にありがとう」 だが私の予想に反し、つかさの口から出た言葉はそういう類いのものではなかった。 「どうしたの? 改まって」 「うん。私、いつもお姉ちゃんに助けてもらってばかりなのに、私はお姉ちゃんの 役に立てることなんてほとんど無いから……」 今日の文化祭の準備のことを言っているのだろう。手伝ってもらったという 負い目だろうか? 俯きながら答えたつかさの声は少し震えているように感じた。 私は努めて明るい声でつかさに言葉を返す。 「そんなことないわよ。私が私らしくしていられるのは、つかさのおかげなんだから」 「お姉ちゃんがお姉ちゃんらしく?」 俯いていた顔を上げて、つかさはこちらに顔を向ける。 「うん。それに私、子供のころは男の子からも恐い恐いって言われていたのに、 つかさだけはいつも私を庇ってくれたじゃない。 『そんなことない。お姉ちゃんは本当は凄く優しいんだ』って」 「そ、そうだったっけ?」 覚えていないのか、つかさは夜でも分かるくらい赤く染まった頬を 人差指で掻きながら恥ずかしそうにそう答えた。 私は昔から気が強い方だった。別に意識してそうなったつもりは無い。 ただ、どちらかといえば不誠実なことに関しては口を挟まずにはいられなかったし、 つかさがからかわれていると聞けば、真っ先に飛んで助けにも行ったりもした。 私はつかさのお姉さんなんだから、私がしっかりしないといけない。私はそれを自分の 信条として生きてきたし、その生き方が間違っているとも思わない。 だが不正を注意し、喧嘩がおこればそれを止める姿勢は一部の人間からは 頭が固い、じゃじゃ馬、面倒なやつなどといった偏見も持たれるようになっていた。 あれは中学一年生のころだろうか? ある日、私がつかさのクラスで談笑していた時、私は教室で走り回っている男子生徒たちに 迷惑だから止めるよう注意をしたことがあった。私は男子生徒たちと口論に成りかけたが、 休み時間終了のチャイムと共に、次の授業のために先生がやってきたため 私は自分のクラスに戻るために口論を止めた。口論していた男子生徒たちが 「自分のクラスでも無いくせにうるさい女だよな」 「だから頭が固いだとか、糞真面目だとか言われんだよ」 という私に対する中傷をぶつけてきた。今にして思えば悲しい話ではあるが、私にとって 悪口を言われることは珍しいことでも無かったので、聞こえなかった振りをして 自分のクラスに戻ろうとした。その時だった。 今まで背後から不安げに見ていたつかさが、私を中傷した男子生徒の目の前で 「そんなことない! お姉ちゃんはすごく優しいもん! お姉ちゃんのことを 何も知らないのに勝手なことを言わないで!」 と声を荒げて叫んでいた。今度はその男子生徒とつかさの間で口論が始まりかけたが、 先生が間に入ってくれたおかげでその場はひとまず収まった。 私はつかさが全力で庇ってくれたことが嬉しかった。あの臆病なつかさが、私のために 怒ってくれたのだと。 つかさは何時もそうだった。どんな時も、何があっても、 常に私の味方で、私の傍にいてくれたのだ。私の具合が悪くなれば、夜が弱いくせに 付きっきりで看病してくれる。いつまでたっても進歩しない私の料理の腕前に、 つかさは嫌な顔一つせず熱心に教えてくれる。私が両親や姉さんたちと喧嘩したときだって、 いつも傍にいてくれるのはつかさだった。 私はつかさの双子の姉であることを心の底から誇らしく思っている。 人は私たち姉妹を比べて、私をしっかりものだとか、お姉さんらしいと評価するが 私はそうは思わない。私がしっかりしていられるのは、自分に自信を持つことができるのは つかさがずっと私を助けてくれていたおかげなのだから。 「だからね、私はつかさが妹で本当に良かったと思ってるの。 双子だから気にすることも無いのに、つかさは今日までずっと私を姉として 慕ってくれた。だから今の私があるんだもの。お礼を言いたいのは私の方よ。 ありがとう、つかさ。私、つかさと双子で本当に嬉しいよ」 私はつかさの左手の取り、つかさの足をその場に止める。振り向きかけた つかさを全身で抱きしめると、つかさが手にしていた鞄が地面に落ちた。 「そ、そんなことないよ、お姉ちゃん! 私、そんな大したことしてないし!」 突然のことに普段のんびりとしたつかさもさすがにおろおろとする。 その様子がまた愛おしい。普段はなかなかこんな話もできないし、今は夜で人気もない。 なによりも、今だったら正直に普段つかさに感謝している 自分の気持ちを伝えることができると思えれば、私は遠慮しなかった。 「いいのよ。つかさはつかさらしくしてくれるだけで、私に元気を分けてくれるんだから」 「お、お姉ちゃんだってそうだよ! 私が今日までやってこられたのは、 絶対にお姉ちゃんの助けがあったからだもん!」 「ふふふ。ありがとう、つかさ」 感謝の思いを込めて、一瞬だけ腕に力を込めてつかさを強く抱きしめてから つかさを開放する。心なしか、先ほどよりつかさの顔は赤く、 私と同じ青色の瞳が少し潤んでいるように見えた。 この子には幸せになって欲しい。こんな私でも姉としてずっと慕い続けてくれた つかさにはどれだけ感謝の言葉を並べても足りない。いつか、この子が結婚式を 挙げる時には、私はこの世界の誰よりも祝福してあげよう。 そんなことを考えながら私たちは再び夜の街を歩きだした。 陵桜学園から歩き始めて、糟日部駅までようやく半分という所までやってきた。 日ごろの文化祭準備の疲れもあって徐々に歩くペースが遅くなっている。 私たちは依然バスで通っている歩道を歩いていたが、私は足を止めた。 「お姉ちゃん?」 「つかさ、駅ってこっちの方向だよね?」 「え? ……うーん、多分そうだと思うけど」 「だったらこの道を通ったほうが早く帰れそうよね?」 私が指さした方向にはいつもバスが通る道とは違う、民家の並んだ一本の細い道がある。 バスで通うのと違い、歩いて帰っている今は少しでも近道をして帰りたかった。 しかし、問題も無いわけではない。 「う、うん。でもこの辺の道そんなに詳しくないし、迷子になっちゃわないかな?」 つかさの言うとおり、私たちはこのあたりの地理に詳しくない。糟日部駅周辺なら ある程度の地理は分かるが、まだ駅と学校のちょうど真ん中あたりに位置する こんな民家が建ち並ぶ住宅街の地理など私たちが知るはずもなかった。 多分、普段の私ならばそんなミスは絶対にしなかったと思う。 いくら月明かりである程度視界が利くとはいえ、こんな夜中に、人気の無い 全く知らない道を、女子高生二人だけで通るなんて危機意識が欠けているといわれても 弁解もできない。しかし、明日も午後からは文化祭の練習はあるし、この疲れた体を 早く休めてやりたいという思いが、なんとかなるだろうという 安易な考えを呼びこんでしまっていた。 「方角さえ間違わなければ絶対早く着くって。ほら行こうよ」 私は自分が先に進めばつかさは後ろからついてくるだろうという 考えのもとに一人で細い道へと入ろうとする。 「お、お姉ちゃん待って――きゃ!」 「うおっ!」 私が歩き始めた直後、つかさの甲高い声と男の人の声が同時に聞こえた。 振り向くとつかさは人にぶつかったらしく、その場に尻もちをついており 他にもつかさの傍に数人の人影が見える。 「ご、ごめんなさい。大丈夫ですか?」 立ちあがったつかさは一番近くにいた男性に頭を下げていた。私も急いでつかさの傍に駆け寄る。 「すみません。うちの妹が迷惑をかけたようで、申し訳ありませんでした」 大方、私を追いかけようと走ろうとした時に、つかさは慌てて人にぶつかったのだろう。 私はつかさの横に並び、正面にいる男性に謝罪した。 「あぁ、大丈夫だよ」 正面からやや野太い声が聞こえて私は頭を上げる。つかさがぶつかった集団は 見たところ十代から二十代ぐらいの若い男性が5人いた。私の正面にいる男性は 口調も穏やかで怒っている様子ではなさそうなことに一先ず安心した。 想いを言葉に(2)へ続く コメントフォーム 名前 コメント (^_−)b -- 名無しさん (2023-05-30 07 47 07)
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私は、じっと教室にある扉を見つめていた。 別に、扉に興味があって見つめているわけじゃあない。 そこから入ってくるはずの人物に用があるのだ。 「かがみさん、遅いですね?」 みゆきさんが私の心を代弁してくれた。 いつもお昼はこちらですごすであろう彼女が、10分を過ぎても現れない。 たとえ来れない日でも、律儀にそれを伝えに来る。そんな彼女が。 ふと、在りえない不安に私は駆られた。 かがみは、実は私と一緒にいるのが嫌なんじゃ? 私は不安をかき消すように首を左右に振る。 もちろん、そんなことはないって思っているけど… かがみは私といるとき。 ほんの時々だけど、すごく辛そうな顔を見せる時がある。 どしたの?って聞いても、いつもはぐらかされてしまうし、私もそれ以上は怖くて追求は出来ないままでいた。 …このまま待ってても、不安になるだけだよね? 私は溜まった不安をかき消すように、元気よく立ち上がった。 うじうじなんてしてらんない。 「ちょっと私、見てくるね!」 「うん、こなちゃん。お願~い」 「うん、引っ張ってでも連れて来るよ~!」 早くいつもの調子を取り戻さないとね。 扉まで小走りで駆け寄り、勢いよく開ける。 一瞬、そこにかがみの姿があることを期待したが、所詮はただの願望だ。 早くかがみに会わないと… 早く… かがみがいないというだけで、どうしてこんなにも私の世界は揺らいでしまうのだろう。 仲のよい親友だから? いや、違う。 そんな次元、私の中ではもうとっくに通り過ぎてしまっていた。 私がかがみを「大好き」だからだ。 どのくらい前から自覚しただろう。 気が付いたらかがみのことばかりを考えていた。 この感情が男女間でのそれなのかどうかは分からない。 だって、まだ男の子を好きになったこと無いし、それに、ここまで人を好きになったのも生まれて初めてだ。 今までで一番の「好き」 それをかがみに捧げることが出来た。 それだけでも私は幸せだと感じてしまう。 大切な、大切な、私だけの「好き」 …さて、行きますか。いざ愛しのかがみんのもとへ! かがみがいる隣の教室の扉を開け、躊躇もなく中に入る。 目的のものは探すまでもなくすぐに見つかった。 「あ、かがみ。寝ちゃってるのかな?」 近寄るのに気付く様子も見せず、微かだが定期的な寝息が聞こえてくる。 う、うわぁ… かがみん、無防備すぎるよぉ。 色々な妄想が私の中を駆け巡る。 うわ、自重しろ、私。 …かがみの唇、柔らかそう、とか、どのぐらいしたら起きるかな、とか、何を考えているんだ。ここって教室だし…って!教室じゃあなかったらやる気なの!? ひとり身悶えした後、なんとか平静を取り繕う。 み、みんなも待っていることだし、取りあえず起こさないと。 私はかがみの肩に手をかけ揺すってみる。 「…オーイ、かがみ。かがみんや~? むぅ、手強い…ならば。 か~がみ、か~が~み!」 よりいっそう強く。 そこまでしてやっと重たそうに頭を上げるかがみ。 よほど深く眠っていたのか、いまだ瞳の焦点が定まっていない。 「かがみぃ。ぼぉ~っとして、珍しーねぇ もう、早くおきなよ」 ほっぺたをムニムニつっつく。 普段なら鉄拳制裁ものだが今はやりたい放題らしい。 私にいたずら心がムクムクと芽生える。 「はやく起きないと、寝起き顔、写メっちゃうよ~?」 ずいぶん前にかがみが風邪をひいた時。 あの時は撮り逃しちゃったしね。 私は珍しく携帯していた電話を出そうと、頭を屈めてポケットを漁る。 そのとき、不意にふわりとした、不自然な浮遊感が髪の毛から生まれた。 なんだろ…かがみ? 思わず顔を上げると、そこに、私の長い髪の一房を手のひらで掬い取るかがみがいた。 私がその行動の意図を理解するよりも早く、それをかがみは口元に近づけていく。 「…こなたの髪? あんたの髪って綺麗よね…」 「ふぇ?」 「いい…香りがする…」 唇に髪をあてる。 まるでキスをするかのように。 「!???」 そこで私のつたない理性は吹き飛んだ。 真っ白に染まる思考の中、冷静に、ただ一点のみに事実が集約する。 かがみが私の…! 「…ってぇ! な、ななななな~!!」 半ばパニックになり、思わずかがみから勢いよく離れる。 「か、かかかか… かがみん!?」 真っ白になっていた頭に、今度は急に血が昇ってきた。 その熱量にくらくらする。 「どうしちゃったのさ!! もしかして…寝ぼけてる?」 私はそんな陳腐な台詞を言うのが精一杯だった。 「こ、こなた!」 目覚めたのだろう。かがみの驚いた風な声があがる。 「いつからそこにいたのよ! つか、ここ教室が違うじゃない!」 「え!え? い、いや、お昼休みになってもかがみが来ないから、 迎えに来たんだけど…?」 かがみの台詞にいつもの反射で答える。 もう自分自身にいっぱいいっぱいで、かがみの様子なんて見ることが出来ない。 …てか、やばい。こんな反応はいつもの私じゃない。 髪に触れられた程度のことで、女の子同士なのにこの反応は無いだろう。 いつもならうまく切り返して、かがみを弄る方向に話を持っていけるのに。 私が頭を抱えてぐるぐると思考している中、幾分か先に冷静を取り戻したのか、かがみは私をじっと見つめると、突然、すくっと立ち上がった。 私はかがみの次の行動が予測できず、ビクッと肩を跳ねさせほんの少し距離を置く。 「…あ、悪い。ね、寝ぼけてたわ。 すぐ支度するからあんたは戻ってて。 ん?どうしたのよ。 顔、赤いわよ?」 「……… ?」 返ってきたのはそんな台詞だった。 …覚えてない? かがみはまるで何事も無かったかのように私を促した。 …まあ、寝ぼけてたってのもあるけどね。 さっきのこと、なんだったのか聞いてみたい気もするけど… 「いや、なんでもないよ? 顔、赤い? あは、風邪でもひいたかな~? じゃ、私、先に行って待ってるから。 かがみも寄り道せずに来るんだよ!」 「お、おう…」 私はすでに教室の扉に向かって走り始めていた。 後ろ手でかがみをビシッと指差しながら、まるで悪役の逃走シーンのように台詞を吐く。 やや遅れ気味のかがみの返事を待たずに、私は廊下に駆け出した。 私はもう、我慢が出来なかったのだ。 かがみが、私の…! ってぇ!自重しろ。 ほんと自重しろ、私! 浮かんできたイメージを掻き消す為に大きく左右に頭を振り、真っ赤になった顔を隠すように腕を口元に当てた格好で廊下を全速力で駆け抜ける。 自分の教室なんかはとっくに過ぎてしまっている。 でも、止まれない。 今の私の状態で教室に戻ることなんか出来やしない。 「かがみが私の髪をほめてくれた! かがみが私の髪をほめてくれたぁ!! かがみが私の髪をほめてくれたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 心の中での大絶叫! …私はわりと女の子らしい身嗜みとかおしゃれとか気にならないほうなのだが、この蒼髪だけは毎日大切に扱っていた。 …死んでしまった…お母さんと同じ、蒼い髪だから。 私にとっては遠いお母さんと繋がる接点といってもいい。 この髪だけは、なんの取り柄もない私が、唯一、誇れるものなのだ。 それを… 私自身といってもいいそれを… かがみが…! 綺麗って言ってくれた! ましてや、いい香りとか! とどめに…キ、キ!ーーーーーーーーーー! 再び、問題のシーンを思い出しては思考を停止させる。 いけない、鼻血が出てしましそうだ。 かがみはさっきのこと覚えてないみたいだったけど、 例え夢の中の出来事でも… いや、夢の中のことだからこそ、そこに隠された本心があった気がしてしまう。 …もう。 かがみのせいでこの髪を大事にする理由がひとつ増えちゃったよ。 しばらく、走ってようやく落ち着きを取り戻した思考に私は足をとめた。 校舎の離れにあるはずの体育館が、もうすぐそこに見えていた。 ははっ…ホント馬鹿だ。 私も案外、乙女だったんだね。 そう考えるとなんだか恥ずかしい。 さて、そろそろ戻らないと絶対に変って思われちゃう。 これは帰りも全力疾走するしかないね。 すぅっと深呼吸をしたあと、私はもと来た道へと駆け出した。 戻ったらきっとかがみに呆れられるんだろうな。 それで私がボケて、かがみがそれにツッコミをいれて… なんのこともない日常の切り取り。 それを想像しただけで私の口元に笑顔が生まれる。 かがみと知り合ってから一年とちょっと。この短い時間が私の人生の中で一番満ち足りていた気がする。 友達なんていう関係が、こんなにも楽しくて輝いているなんて… …きっと、昔の私には想像もつかないんじゃないかな。 …でも。 こんな楽しい時間は、きっと長くは続かない。 今、私たちは高校二年生で、卒業までは、あと一年と半年くらいしか残されていない。 受験勉強や、就職活動なんかやってたら一瞬で過ぎ去ってしまうだろう。 私はこの友情を一生のものだと思っているけど、かがみは違うのかもしれない。 きっと…かがみなら可愛いし面倒見もいいから、大学にいったらすぐに新しい友達を作っちゃて。 それから…彼氏…なんか作って… 私のこと、忘れちゃうんだろうな。 …しかたないよね。 女性である私が、かがみを独占することなんて出来ない。 まして、いくら仲が良くったって、流石にそういう意味で好きって知られたら、引かれちゃうだろうし… でもね?今は友達としてでもいいから、そばに居たい。 だからかがみん。 今だけは、 「大好き」 のまま居させてくれないかな? 離れるまでのほんの短い間だけれども、それが私の一生の思い出に出来るように。 いつか私が知らない誰かと結婚とかしても、ホントのココロはかがみにあげるから。 こんな自分勝手なわがままだけど、ごめんね?かがみ。 私はこの気持ちだけは否定したくはないから。 だって… かがみからもらった大切な… 私だけの… 初めての恋だから。 EpisodeⅠ‐B END EpisodeⅠ‐A ~刈り取る想い~へ コメントフォーム 名前 コメント (≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-04 07 54 31) うおぉぉぉぉぉこなた羨ましいぃぃぃぃぃ← -- 名無しさん (2010-04-02 21 48 15) た、大作の予感!! 作者様、つづき楽しみに待ってます。 -- kk (2009-01-20 01 02 38) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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ゆれたい・四 その時、つかさがトイレに行くと言って、あと十分程で着くであろう駅へ一目散に走っていった。 私はかがみと二人きりで、突如その場に取り残された。号泣寸前になっていた私は呆気にとられてその場に立ち止まってしまった。 目の前が真っ白になっていた。何ぼーっとしてんのよ、というかがみの声を受けてようやく我に返り、私は歩きだした。 私はかがみの右隣り、つまりそれまでつかさがいたポジションに就いた。 後ろをついていくのも不自然に感じたし、何よりも、体が吸い込まれるようにその位置に向かっていたからだ。 かがみと二人きり。何の努力もしていないのに、私の望み通りの状況になっていた。 自力で状況を創りだして大コケしたカラオケボックスでの出来事を思い出し、皮肉を感じずにはいられなかった。 悲しみは一気に引き潮になり、今度は感激でいっぱいになった。 奇妙にも会話は無かった。私は頭の中で黄金色の宝石がキラキラと輝きだして会話どころではなかったし、かがみも何も話しかけてこなかった。 しかし、私にとっては、隣を歩ける、ただそれだけで十分だった。 左腕が何度もかがみの右腕と触れ合い、その都度私はかがみの顔をさりげなく覗き込んだが、いつもの優しげな横顔が見えるだけで何の変化もなかった。 隣を歩くのはいつも学校へ行く時にしていることなのに、その時の私にはそれが何よりも嬉しいものだった。 冷え切っていたはずの心が、ゆっくりと温まっていく。 私の悲しみを勝手に持っていかないでよかがみ、と恨んでも、私の気持ちなんて全く理解せず、どんどん悲しみはかがみに持ち去られた。 そんなことを考えて、また独り相撲を繰り返してしまっていた。 嬉しくなってきた私は、思い切ってさりげなく寄り添ってみた。 ただ単に、数センチの二人の隙間をさらに縮めて、僅かに二、三度左へ首を傾けただけのことだ。 それでも、ふざけているわけでも無い時に寄り添うなどとても出来たことではない。 しかしその時は、不思議なことに全く躊躇しなかった。カラオケボックスの時のような極度の緊張も全く無かった。 そして、かがみも私を離そうとはしなかった。本当は離したがっていたかもしれないが、そこまでは分からない。 かがみの肌の温もりが、かがみの制服と私の制服を渡って少しづつ伝わってきて、そのたった少しだけのその熱が、私の全身へ溶けていった。体中がポカポカとしてきた。 私の眼によってフィルターをかけられ黄金色になった街を背景に、私とかがみの周りで、色とりどりの宝石の沢山の欠片がくるくる、とろとろとまわっていた。 そこに私達だけの時間と空間がいつまでも流れていた。一生この空間から抜け出せなくてもいいとすら思ったが、 「ねえこなた。」 それをかがみの言葉が打ち破った。 歩きながら、私はかがみに呼ばれた。宝石の欠片が色と輝きを失って地面にジャラジャラと転がり、街は一瞬で黒色に戻った。 少しがっかりした。返事はせずに、顔だけをかがみの方へ向けた。 「あんたの歌聴いてるのも、本当はすごく楽しかったわよ。また行きましょ。」 真心のこもった言葉なのか、その場の何気ない一言なのかはよく分からない。 ただ一言優しく言ってくれたかがみだけがそこにいた。 例によっていつものツンデレですか、などとは一切考えずに、私は小声でありがとうとつぶやいた。心の中で言っただけだったかもしれない。 まだまだ脈ありと考えていいのかな、そんなことを考えながらかがみの言葉を反芻していた。 私はかがみと改札前で別れ、人ごみの中へ溶けていった。 改札をくぐり数メートル進み、くるりと全身で振り返ってみたところ、かがみはまだこちらを向いていた。小さく手を振っている。 私も手を振り、また元の方向を向き、更にもう何メートルから進んで、今度は首だけで振り返ってみた。かがみはまだこちらを向いていた。手はもう振ってない。 数十センチ進み、また全身で振り返った。かがみはもう反対側を向いていた。 妙に悔しくなって、元の方向を向いて五秒位立ち止まってから、再びちらと覗き見た。反対側を向いていたはずのかがみが、いつの間にかまたこちらを向いていた。 二、三歩進み、また覗き見た。周りを行く人に隠れてもう見えなかった。 磁石に引かれた鉄釘になった足を磁界から引き離し、ようやく進むべき方向へ歩きだした。 列車の窓の向こうは闇に染まっていた。その中に建物の窓から漏れ出した様々な形の光が、ある場所では長方形になって規則正しく並び、ある場所では雑然と散らばっていた。 揺れる列車の中で、私はかがみにメールを打った。リモコンのボタンを震えながら押していたその指が、その時は不気味なくらいにスラスラとキーの上を踊っていた。 「私もかがみんの歌をもっと聴きたいよ。」 今は切ない片想いだけど、いつか絶対に振り向かせてみせるよ。 木枯しに抱かれながら、私はきっと…。 コメントフォーム 名前 コメント GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-27 07 56 14) おぉ~、この作品を拝見してから、あのカラオケEDシーンもう一回見たくなった。 -- kk (2009-01-23 01 02 35) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)
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え、え~と……こ、こんにちわ!!柊つかさです!! 最近お姉ちゃんが変なんです、一人で急にニヤニヤし始めたり、こなちゃんの名前を突然呼び始めたり……。 これって変ですよね? ……え?変じゃないって? ……あはは~バルサミコ酢~♪ ――お姉ちゃんを観察!!-朝-―― 朝、私は寝起きが悪いです。 自分では起きられません、お布団の中が幸せ過ぎて出れません。 そんな私をお姉ちゃんは毎日起こしに来てくれます。 ……ねぇお姉ちゃん、誰と電話してるの? 「ホントアンタは起きないなー、毎朝私が電話しないと起きない訳?……ツンデレ言うな!!」 ……どうやらこなちゃんと電話しているみたいです、朝なのに。 その月のお姉ちゃんの電話代は2万を超えていました。 どんだけー。 ―――――――――― 「急ぐわよ!!つかさ!!」 「お姉ちゃん待ってぇ~」 お姉ちゃんが全速力で走っていきます、もう姿が見えません。 途中で燃え尽きていないか心配です。 「お姉ちゃ~ん……」 私も急いで走ります、だけど朝という事もあってか身体が動きません。 お姉ちゃんは動いてます、通った跡が黒くなってます。 どんだけー。 ―――――――――― やっとの思いでこなちゃんとの待ち合わせ場所にたどり着くと……。 「こなたぁ~~~♪」 「かがみ~~~ん♪」 お姉ちゃんとこなちゃんが抱き合っていました。 あはは~バルサミコ酢~♪ 「会いたかったよぉ~♪」 「こなたぁ~♪」 私の中のお姉ちゃんが崩れ落ちました。 ジェンガみたいに崩れ落ちました。 厳しいけど立派だったお姉ちゃんは何処に。 「かがみのラブコールで目が覚めたよぉ~♪」 「こなたぁ~♪」 お姉ちゃんはさっきからこなちゃんの名前しか言ってません。 お姉ちゃんの思考回路は壊れちゃったのでしょうか。 ……これが私のお姉ちゃん? ……『嘘だ!!』 ……あれ?私は一体……何を言ったのかな……? 「かがみぃ~、もっと強く抱きしめて~♪」 「こなこな♪」 お姉ちゃんが壊れました、完全に壊れました。 もはやお姉ちゃんではありません。 「やっぱりかがみは私の嫁だよぉ~♪」 「こなこな♪」 お姉ちゃん、粉が欲しいの? 買ってこようか?買って頭から掛けようか? 「そろそろバス来ちゃうから行こうかがみぃ~♪」 「こにゃた~♪」 私は盛大にずっこけました。 壁が壊れる位の衝撃でずっこけました。 しかもこなちゃんには私の存在すら気付いていない様子です。 あはは~バルサミコ酢~♪ ―――――――――― バスの中でも二人は抱き合っています。 しかも何かオーラが出ていて近寄る事が出来ません。 どんだけー。 「うにゃ~うにゃ~♪」 「みゅ~みゅ~♪」 お姉ちゃん達が動物になってしまいました。 隣に居る男の人は何やら悶えています。 「かがみゃ~♪」 「こにゃこにゃ~♪」 どうやら猫になりきっているみたいです……恥ずかしくないのかな……? 隣に居る男の人は窓に頭を打ち付けています、窓にヒビが入りました。 「きちゅ……きちゅちよ……」 私は盛大に飛びました、勢いがありすぎて一回転しました。 隣に居る男の人は窓に頭を打ち付けています、窓が割れました。 そしてお姉ちゃん達はキスしています、ちなみにバスの中です。 え?分かってるって? どんだけー。 隣に居る男の人は床を転がりました。 そんなこんなで学校に到着です、バスは半壊してました。 ……と言うより半分溶けてました、走るのでしょうか。 お姉ちゃん達は校門でキスしながら抱き合っています。 閉鎖空間が出来てました、ATフィールドかディストーションフィールドが発生してました。 ……ちなみにまだ朝です。 ……あはは~どんだけ~♪ お姉ちゃんを観察!!-午前- コメントフォーム 名前 コメント 笑笑(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-03 20 47 31) あはは、バルサミコ酢〜♪ -- 名無しさん (2021-02-10 22 58 40) 耐えてたのに「買って頭から掛けようか?」に吹いたww -- マッドサイエンティスト (2014-05-05 11 43 28) あ、バスぶっ壊したの俺だ・・ -- 名無しさん (2010-01-07 00 59 42) 窓割ったり 床を転がったりして 申し訳ありません。 それたぶん私です -- 無垢無垢 (2009-02-24 21 12 09) かがみ精神崩壊(いい意味でね)ww -- 名無しさん (2009-02-24 20 43 20) 柊つかさ様へ 貴方の姉君は至極正常です。 ただ、新婚夫婦等がかかりやすい単なる「バカップル症候群」に冒されてるだけです。 多少症状が重めですが既に手遅れなので別段心配は要りません。 周りへの被害は許容範囲内です。 これからも愛溢れ漲ってるお二人を生暖かい目で見守ってあげて下さい。 -- こなかがは正義ッ! (2009-02-18 02 53 10) 読み終えたらなぜか部屋の窓が全て割れていて頭が痛いのだが? -- 名無しさん (2009-02-17 23 27 31) 朝でこれとか…w それ以降どうなるんだろうww(:´・ω・) -- 名無しさん (2009-02-17 21 22 32) バカップル警報 -- 名無しさん (2009-02-17 18 25 04) GJ かがみが昼休みにこなたの教室に入った瞬間で桃色空間が発生しそうw -- 名無しさん (2009-02-17 02 00 57) 投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください)